"317号室の隠し壁" 第6話
「客乗務員たちのことだな」
その声は瞭だったが、は聞き取れた。
「いつか誰かが来るとっていた。あの女性たちは、ホテルをていない」
佐藤は静かな隅へ子を移すのを伝い、向かいに座った。
「当、あなたは何も見ていないと証言しています」
加藤はまぶたを伏せた。
「嘘をついた。彼女たちを見たわけじゃない。だが、音を聞いた」
「どんな音ですか」
加藤の指が膝ので震えた。
「叫び声だ。真夜をし過ぎた頃、3階から聞こえた。きな叫びではない。壁の向こうか、毛布のから聞こえるような、こもった声だった」
佐藤の背筋がたくなった。
「その、あなたはどこに」
「のボイラーだ。換気ダクトを通じて聞こえた。私は怖くなって、にはかなかった」
加藤は自分を責めるように唇を噛んだ。
「臆病だった。酒をんで、声が止まるまでに隠れていた」
「声はいつ止まりましたか」
「午1頃だったとう。その、建物全体が静かになった。古いホテルなら、いつも何かしら軋む音がする。だが、そのだけは完全な沈黙だった。まるで建物全体が息を止めているようだった」
がを乗りした。
「メンテナンス用の通について聞きたいんです」
加藤はゆっくり顔をげた。
「から3階のサービス廊へつながるトンネルがある。客用のエレベーターや階段を使わずに、各階へける通だ。
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全ではないから、普段は鍵をかけていた」
「その夜は」
「翌朝、ドアがけっぱなしになっていた。くさびで固定されていた」
佐藤はと線を交わした。
それなら、防犯カメラに映らず3階へがることができる。
加藤はカーディガンのポケットから、古びた鍵を取りした。
「これを持っていた。いつか必になるかもしれないとって」
佐藤は鍵を受け取った。のひらに、古い属のさが伝わる。
「その通で、誰かを見たことはありますか」
「1度だけ」
加藤はくを見る目になった。
「事件のし、で作業をしていた。トンネルの奥から音がした。見げると、のに男がっていた。背がく、痩せていて、黒髪で、だった。メンテナンス用の制のようなものを着ていたが、見たことのない男だった」
「何か言いましたか」
「何も。ただ、じっと私を見ていた。30秒ほどして、何も言わずにトンネルの奥へ戻っていった」
佐藤のので、ピースがつながり始めた。
が改装に見た男。
加藤がトンネルで見た男。
防犯カメラが止まった3階。
壁に封印された所持品。
犯は、ホテルの構造を熟していた。
客用通を使わずに移でき、防犯カメラの角をっていた。改装事の計画も理解し、隠し所を選ぶと権限を持っていた。
それは偶然の犯ではなかった。
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ホテルそのものを狩りとして準備していたのだ。
加藤の証言を得た翌朝、佐藤たちはホテルへ戻った。
科学捜査チームと構造技術者が同し、のメンテナンス用トンネルへの入準備がわれた。古い扉をけると、たく湿った空気が流れした。
防護を着た佐藤は、懐灯を握り直した。
トンネルは狭く、コンクリートの壁は分と汚れで黒ずんでいた。にはひびが入り、ところどころに古い配線がしている。
列になってむと、しばらくしてに異様な傷が見えた。
く刻まれた平な溝。
まるで爪を持つ何かが、必にコンクリートを引っかいたようだった。
佐藤は膝をつき、ライトを当てた。
傷は奥へ続いていた。
誰かが引きずられながら、をつかもうとした痕跡。
その像が、佐藤の胸を締めつけた。
さらにむと、トンネルは広い流点にた。
そこで最初の遺骨が見つかった。
客乗務員の1ではなかった。
もっと古い女性の骨だった。首の骨の周囲には錆びた属が残り、壁につながれていたことを示していた。
は息を呑んだ。
「どれだけから……」
誰もすぐには答えられなかった。
そのも、脇の通や貯蔵のような空から、複数の遺骨が見つかった。蓋骨に傷のあるもの、壁際で丸まるように残されていたもの。
齢も期も異なる女性たちだった。
ホテル・スカーレットローズのには、いにわたるが蓄積されていた。