"8年目の松林" 第5話
美子が男性と話をしていたという。ただし、その男性が誰かは分からないと言った。
刑事は田のを訪ね、納ので詳しく話を聞いた。
「男性のや装は覚えていますか」
田は作業着の袖で額の汗を拭き、曖昧に首を振った。
「距がかったから、よく見えんかった。ただ、男のように見えた」
「声は?」
「聞こえんかった」
「松本先の様子は?」
「普通じゃったとう」
答えはどれも曖昧だった。
の々は田も怪しく見た。お盆の贈り物を美子に断られてから、田が気を悪くしていたことをっていたからだ。しかも、失踪当に美子を最に見たと名乗りたのが田だった。
けれど、田には農作業をしていたという証言があった。何かのが午のどこかで田の姿を見たと言った。完璧なアリバイではなかったが、疑うには分だった。
宿の主、鈴も調査を受けた。
最、宿代の値げを求めていたことがらかになったためだった。美子がそのことで悩んでいたという話もた。
「銭問題で揉めたのでは?」
刑事に尋ねられると、鈴は両を膝ので握りしめた。
「違います。松本先はよく聞いてくれました」
しかし所の々の証言はし違っていた。
「松本先が悩んでいるように見えた」
「鈴さんとし言いっていたようだった」
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そう話す者もいた。
だが、これも決定な証拠にはならなかった。
警察は周辺を捜索した。
学から宿までの、の入のバス、田んぼのあぜ、川沿い、そして学裏の松林。刑事と警察官たちはをかき分け、面を確認した。
しかし何も発見できなかった。
目撃者は田以にはほとんどいなかった。証拠もない。がかりもない。
数が過ぎると、警察はある結論に傾き始めた。
の能性がい。
若い女性教師が田舎の活に適応できず、どこかへってしまったのだろう。
捜査はしずつ縮されていった。
には疑いだけが残った。
誰かは佐藤教が何かっていると言った。
誰かは田が怪しいと言った。
また誰かは田教諭が嫉妬のせいで何かしたのだろうと言った。
しかし、誰も確信できなかった。
証拠がなかったからだ。
美子の両親は阪からへ来た。母親は娘の部で記帳を抱きしめ、声を殺して泣いた。父親は学の周辺を何度も歩き、すれ違うにをげて報を求めた。
娘の写真を載せたチラシも貼られた。
「報をください」
けれど、何の連絡も来なかった。
1が過ぎた。
2が過ぎた。
松本美子の消息は途絶えたままだった。
の々の関も、しずつれていった。最初はあれほどかった噂話も、やがて々のから消えていった。
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事件は未解決のまま、の底に沈んでいった。
佐藤教は、事件から2に別の学へ転勤した。
岡県部の学で、として発令を受けたのだった。転勤するの佐藤教は、普段と変わらない様子で同僚たちと挨拶を交わし、静かにっていった。
誰も、彼に事件について直接尋ねなかった。
もう古いことになりかけていたからだ。
それでも、彼を見るの目にはさな疑いが残っていた。
「本当に何もらなかったんだろうか」
そんな声が、折どこかで囁かれた。
田教諭はその学に残り続けた。5の担任を続けて受け持ったが、事件の、以とはらかに変わった。
しい若い教師が赴任してきても、田教諭はもう誰にもく関わろうとしなかった。昼休みも1で弁当をべ、放課になるとすぐにへ帰った。
同僚たちは、田教諭が数なくなったと言った。
「何かにいものを背負っているみたい」
そう言う教師もいた。
しかし、それだけで何かを問い詰めることはできなかった。
宿の主である鈴は、美子が使っていた部を2度と貸さなかった。
ベッドも机も、そのままにしていた。鞄、本、、記帳。警察や遺族が確認したも、戻された品々は部の隅に置かれていた。
もしかしたら、いつか美子が戻ってくるかもしれない。
鈴はそうっていた。
毎朝、鈴はその部の戸をしだけけた。
「松本先」
返事はない。