"深淵に沈んだ家族" 第1話
私は今も、1998のあのと同じにんでいる。
仙台の宅にある、古い玄関ポーチ付きのだ。父が勤に具箱を置き忘れた所。母がになると鉢植えを並べていた所。姉のサラが友と話をしながら腰かけ、妹のエナが縄びをしていた所。
そして、族を最に見送った所でもある。
当、私は14歳だった。
その朝、私はインフルエンザにかかっていた。体温は39度くあり、喉は焼けるように痛み、咳をするたびに胸の奥が引き裂かれるようだった。毎恒例のキャンプ旅をどれほど楽しみにしていたとしても、その状態でに乗せてもらえるはずがなかった。
父の達也は、玄関先で私の額にを当てた。
「無理するな。すぐ帰ってくる」
そう言って笑った。
母の子は助席からを乗りし、私に投げキスをした。姉のサラは部座席の窓をけ、わざときな声で叫んだ。
「く良くなってね、負け犬」
いつもの冗談だった。
妹のエナはウォークマンにで、こちらを見ずにだけを振っていた。膝のには、3歳の頃から放さないの象のぬいぐるみが抱かれていた。
父はエンジンをかけた。毎の習わしで、をすにクラクションを2度鳴らす。
く、2回。
私は玄関ポーチの柱にもたれながら、黄の1996式ホンダ・アコードが通りの角を曲がっていくのを見ていた。
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あのは、腹をてていた。
自分だけ置いていかれたことが悔しくて、でぼんやりするので、く帰ってくればいいのにとっていた。
まさか、それが族を見た最になるとはいもしなかった。
それから20が過ぎた。
私は森本純平、34歳になっていた。
父がかつて具を保管していたガレージを使い、森本務を継いだ。内装事、窓枠の交換、膏ボードの張り替え。そんな仕事で々をつないでいる。作業トラックのマグネットサインはすっかりあせていたが、まだかろうじて「森本務」と読めた。
あの、私は佐藤さんののキッチンで壁のパテを塗っていた。
はいで汚れていた。佐藤さんは朝からずっとそばにち、棚の隙や壁の歪みについて細かく指摘していた。
その、ポケットのスマートフォンが鳴った。
らない番号だった。
局番は岩県。
私はパテナイフをバケツの縁に置き、話を肩とで挟んだ。
「もしもし。森本です」
話の向こうから、落ち着いた女性の声が聞こえた。
「こちら岩県警の古川景子巡査です。ご族の件でお話しました」
その瞬、息が沈んだ。
20経っても、その言葉は腹を殴られるような衝撃を持っていた。
私は佐藤さんに何も言わず、のポーチへた。たい気を吸い込み、慎に声をえた。
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「族が、どうかしましたか」
「ご族のを発見した能性があります」
私はポーチの階段に、力が抜けたように腰を落とした。
「どこで……」
声は14歳の頃のようにかすれていた。
古川巡査は、ゆっくり説した。
調査士の川崎輔という男が、岩県の隔にある森林をドローンで測量していた。そこで、数の両が沈められた巨な陥没穴を発見したという。
そのに、黄のセダンがあった。
メーカー、モデル、。
すべて、族が乗っていた1996式ホンダ・アコードと致していた。
私は目を閉じた。
父はあのをとても誇りにしていた。
「鈴さんから買ったんだ。ほとんどだぞ」
父はそう言って笑っていた。
鈴達也。
町の古販売「鈴オート」の主。
誰にでもがよく、元ではらない者のいない男だった。
「今夜、そちらにきます」
私は古川巡査にそう告げた。
「この20、その話を待っていました」
話を切ると、私は佐藤さんののキッチンを振り返った。塗りかけのパテは、もう固まり始めている頃だった。
削ってやり直さなければならない。
けれど、そのの私には、壁のことなどどうでもよかった。
仙台から盛岡までの運転は、普通なら4かかる。
私は3半で着いた。
途で止まったのは、ガソリンとブラックコーヒーを買うための1度だけだった。
そのコーヒーは、まるでエンジンオイルのように苦かった。
盛岡内のビジネスホテルにチェックインした、すでに夜はかった。