"五度目のドタキャン弁当" 第1話
「やっぱり今、運会にはかないわ」
話の向こうから聞こえてきた姑の声は、あまりにも軽かった。
私は玄関先で、3段ねの箱を両に抱えたままち尽くした。朝4から揚げた唐揚げ、甘い卵焼き、タコさんウインナー、インゲンの肉巻き、娘の好きなものを詰め込んだ弁当が、急にずしりとくじられた。
「は……?」
わず漏れた声は、自分でも驚くほどかった。
話の向こうでは、駅の構内らしきざわめきが聞こえていた。の発をらせるアナウンス、の音、誰かの笑い声。そので姑のトメは、しも悪びれずに続けた。
「仕方ないでしょ。次男の孫の運会と、男の孫の誕会だったら、どっちが優先か決まってるじゃない」
私はスマートフォンを握る指に力を込めた。
「お母さん、5回目ですよ」
「え?」
「ドタキャン、5回目です。次は許さないって言いましたよね」
瞬、話の向こうが静かになった。
けれどトメはすぐに、面倒くさそうな声で笑った。
「まだそんなこと根に持ってるの? やむを得ない事なんだから仕方ないでしょう」
その言葉を聞いた瞬、胸の奥に溜め込んできたものが、音をてて崩れた気がした。
私は志帆。43歳のパート主婦だ。夫と学5の娘・ゆいと3で暮らしている。
ゆいはるくておしゃべりで、しおっちょこちょいなところがある。
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けれど、誰かが困っていると放っておけない優しい子だった。そんな娘が今、学の運会でリレーの選に選ばれた。
毎晩、夫は仕事で疲れているはずなのに、庭でバトンパスの練習に付きっていた。
「パパ、もう1回!」
「よし、次はもっと速く渡すぞ」
夕方の庭に、ゆいの弾む声と夫の笑い声が響く。その姿を台所の窓から見ていると、胸がじんわりくなった。
だから私は、運会当の弁当にも気いを入れていた。
「ママ、今は唐揚げめね」
「はいはい」
「あと卵焼きは甘くしてね」
「はいはい」
「あとデザートはね……」
「注文がすぎ」
私が笑うと、ゆいも楽しそうに笑った。
その笑顔が見たかった。
リレーで頑張る姿を、族みんなで応援したかった。
それなのに。
をる直、スマートフォンが鳴った。画面に表示された姑の名を見た瞬、胸騒ぎがした。嫌な予ほど当たるものだと、このほどったことはない。
「お母さん、今どこですか?」
「今、駅なの」
「駅?」
「やっぱり今、男の孫ちゃんの誕会にくことにしたから。今からに乗るのよ」
私は言葉を失った。
「昨、運会に来るって……」
「男の孫ちゃんの10歳の誕ですもの。私がかなきゃ始まらないじゃない」
「でも、せっかくお弁当も……」
「だから、仕方ないでしょって言ってるの」
トメは当然のようにそう言い、最には方に話を切った。
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ツーツーという無質な音だけがに残った。
私はスマートフォンをろし、玄関のを見つめた。箱を包んだ呂敷の結び目が、やけにきれいに見えた。夜遅くまで仕込みをし、朝から揚げ物をして、姑の急なリクエストのミートボールまで追加した。
その全部が、踏みにじられた気がした。
「ママ?」
背から、ゆいの声がした。
振り返ると、運をかぶった娘が、期待に満ちた顔でこちらを見ていた。
「おばあちゃん、もう着いたって?」
私は喉の奥に詰まるものをみ込み、無理に笑顔を作った。
「今、来られなくなっちゃったんだって」
ゆいの顔が曇った。
「そっか。やっぱり」
そう言って、娘は無理に笑おうとした。けれど元がし歪んでいた。
「おばあちゃん、いつもそうだね」
その言で、胸が締めつけられた。
姑のわがままと気まぐれに、私だけでなく娘まで傷つけられている。
もう限界だった。
私はスマートフォンを鞄に入れ、箱をしっかり抱え直した。
「次は許さないって言ったわよね」
さく呟いた言葉は、自分でも驚くほどたかった。
「もう、お母さんのい通りにはならないから」
そう決めた朝だった。
姑のトメは、がから徒歩5分ほどの所に1で暮らしている。70歳になるが、体は元気で、声もきく、力だけは倍あった。
ただし、その力はいつもこちらの都を無して発揮される。
頼んでもいないのに突然やってきて庭をいじる。