"空っぽの珈琲サーバー" 第10話
達はすぐには答えなかった。
病院のなのか、の音が聞こえた。誰かがくを歩く音もする。達は話を握ったまま、ち尽くしているのだろう。
やがて、彼はため息交じりに言った。
「それは……お袋の介護に疲れてしまったからなんだ」
私はわず目をいた。
「介護?」
「ああ。お袋は俺にばかりきつく当たるだろ。面倒だったんだよ。目が見えなくなったと言えば、お袋の世話から解放されるし、お袋から文句を言われることもないからな」
あまりにも勝な理由だった。
私は言葉を失った。
母親の介護から逃げるため。
母親に叱られたくないため。
ただそれだけのために、達は目が見えないふりをし続けた。
「あなた、自分が何をしたのか分かっているの?」
私の声は震えていた。
「その嘘のせいで、私は活を支えるためにパートを3つ掛け持ちしたのよ。義母の介護も、事も、あなたの世話も、全部背負ったのよ」
達は黙っていた。
私は隣にいる信吾を見た。
信吾は俯き、膝のでを握りしめていた。
「信吾だって、まだ学なのに、自分のを削っての伝いをしてきたわ。荒れてわがままを言う父親のために、どうしたらの空気が良くなるかまで考えてくれた」
信吾はさく首を振った。
何か言いたそうだったが、言葉にはしなかった。
私は話に向かって続けた。
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「あなたは、の黒柱のふりをして、実際には私たちの善に甘えていただけだったのね」
達は苛ったように言った。
「そんな言い方をするなよ。俺だって変だったんだ」
「変だった?」
私はわず笑った。
「本当に変だったのは、誰だとっているの?」
話の向こうで達は黙った。
私はもう、この男に期待することをやめた。
「私たち、婚しましょう」
その言葉は、驚くほど自然にからた。
達が慌てた。
「待てよ、望美。そんな急に」
「急じゃないわ。私のでは、もうずっとから終わっていたのかもしれない」
「おい、話しおう」
「話しいなら、あなたが嘘をつくにするべきだったわね」
私はそう言って、話を切った。
通話が切れた瞬、リビングは静かになった。
信吾が私を見た。
「母さん、丈夫?」
私はすぐには答えられなかった。
丈夫ではなかった。
けれど、もうち止まるつもりもなかった。
「丈夫にするのよ」
私はそう言った。
その数、再び達から話がかかってきた。
画面に表示された名を見て、私はさく息を吐いた。
今度はすぐにた。
「もしもし。どうしたの? まだ何か用事なの?」
達は興奮していた。
「どうしたじゃないだろう。俺のが売りにされてるぞ!」
その声には、焦りとりが混じっていた。
私は静に答えた。
「そうよ。私が売りにしたからね」
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「勝になんてことをしてくれるんだ!」
達は鳴った。
「お袋もんでいるんだぞ。を売り払って、俺のお袋はどうするつもりなんだ? 子のお袋に野宿をさせる気か?」
私は呆れてしまった。
普段は義母に関わらないよう逃げ回っていたが、こういうだけ母親を盾にする。
そのっぺらさが、今ははっきり見えた。
「何よ。普段はお母さんのことなんか気にも留めていないのに」
「それとこれとは別だろう」
「別じゃないわ」
私は言った。
「お母さんは、うちで面倒を見ます」
「うち?」
「私の実よ」
達は息を呑んだ。
「お袋に何を話した」
「全部よ。あなたの目が見えていることも、倫していることも」
達が何か鳴ろうとしたが、私はそれを遮った。
「お母さんは、もう全部っているわ」
実際、私は達との話を切ったあと、瑞穂に真実を告げていた。
最初に話す、私はかなり緊張していた。
瑞穂は息子である達に厳しいだったが、それでも母親だ。自分の息子が何も目が見えないふりをしていたと言われて、すぐ信じられるはずがない。
私は実ので、瑞穂の子のに座った。
信吾も隣にいた。
「お母さん、落ち着いて聞いてください」
瑞穂は私の顔を見て、ただならぬものをじたのか、背筋を伸ばした。
「何かあったのね」
「達さんのことで、お話があります」
私は言葉を選びながら、全てを話した。
達が本当は目が見えていること。
信吾が普通に歩く姿を撮していたこと。