"空っぽの珈琲サーバー" 第9話
「なんでそうなるんだよ」
達がようやく声をした。
「たつき、あなたはいつも通りでコーヒーをんだふりをして、本当は昼にどこかへかけていたでしょう」
「そんなわけないだろ。俺は1じゃどこにもけないんだぞ」
「本当かしら」
私がそう言うと、達は声を荒げた。
「なんだよ。望美は何を疑っているんだ」
私は目を閉じた。
ここから先をにすれば、もう完全に引き返せない。
けれど、そもそも私たちはとっくに壊れていたのだ。壊れていたものを、私だけが必に両で押さえていたにすぎない。
私は目をけた。
「それと、この際だから言うけど、あなた、倫しているでしょう」
話の向こうが、完全に静まり返った。
病院のざわめきだけが、くに聞こえた。
その沈黙は、私にとって何よりの答えだった。
「相は科医の奈美先ね」
「……お、何を」
「あなたは、誰もいないにを抜けして、あの女医と密会していたんじゃないの?」
達は拍遅れて笑った。
乾いた、わざとらしい笑いだった。
「おいおい、さっきからどうした? なんでそうなるんだよ。考えが躍しすぎだぞ」
「そうかしら」
私はスマートフォンを操作し、信吾が撮した画を達に送った。
「これを見てもらえる?」
「見ろって、俺は目が見えないんだぞ」
「いいから確認して」
私は静かに言った。
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話の向こうで、達が黙った。
画をいたのだろう。しばらく何も言わなかった。
その画には、杖を使わず、まっすぐ居の廊を歩く達の姿が映っていた。廊の端に置かれていた段ボールを避け、角を曲がり、迷いなく部へ向かっている。
引っ越したばかりで、目の見えないが勘だけで歩けるようなきではなかった。
やがて達が言った。
「そ、それはただの歩練習だよ」
声がしずっていた。
「歩練習?」
「ああ。俺だって失していからな。覚が研ぎ澄まされて、勘だけで歩けるようになったんだ」
私はさく笑った。
「でも私たちのだと、こんなふうに普通には歩かないじゃない」
「おたちがいるは、ぶつかったら困るからだよ」
「それなら、どうして杖なしで段ボールを避けられたの?」
「だから勘だって言ってるだろう」
達は必だった。
その必さが、かえって真実を浮かびがらせていた。
私は続けて、もう1枚の写真を送った。
それは、達と奈美がで並んで歩いている写真だった。達は杖を持っていない。奈美の隣で自然に歩き、折顔を向けて笑っている。
2の距はかった。
ただの医師と患者には見えなかった。
「それじゃあ、これはどう説するの?」
私は尋ねた。
「ずいぶん仲が良さそうだけど」
達は瞬詰まった。
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けれど、すぐに言い訳を探したようだった。
「そんなの決まってるじゃないか。訓練だよ。先はだから、俺の訓練に付きってくれたんだ」
その言葉を聞いた瞬、私は静かに息を吐いた。
「つまり、あなたは私が送った画も写真も見えているってことよね」
話の向こうで、達が完全に止まった。
「……え」
自分が何をにしたのか、ようやく気づいたのだろう。
見えていないはずのが、送られた画と写真の内容に反応した。
しかも、言い訳までした。
私は黙って待った。
やがて、達がく呟いた。
「しまった……」
その声を聞いた、私ので最の期待が消えた。
それでも、確認しなければならなかった。
「達、本当のことを言って」
い沈黙のあと、達は観したように言った。
「ああ、そうだ。望美の送った画も写真も、俺はしっかり見たよ」
私は目を閉じた。
信吾が隣で息を呑んだ。
ついに、達は認めた。
本当は目が見えていることを。
私たち族を、何も騙していたことを。
達が本当は目が見えていると認めた瞬、私の体から力が抜けそうになった。
けれど、泣く気にはならなかった。
鳴る気にもならなかった。
あまりにもい、私はこの男のために自分の活を削ってきた。朝から晩まで働き、義母の介護をし、事をこなし、息子にまで負担をかけた。
その全てが、達の嘘のに成りっていた。
そううと、涙より先に、がたく静まり返った。
私は話で尋ねた。
「なぜ、あなたは目が見えないふりをしていたの?」