"空っぽの珈琲サーバー" 第8話
けれど、その目には、子どもが抱えるにはすぎる疲れが滲んでいた。
私は胸が痛んだ。
信吾は、父親を疑いたくなかったはずだ。
それでも、自分の目で見てしまった。杖を使わず、普通に歩く父の姿を。族のでは自由なふりをし、母に負担を押しつけていたかもしれない父の姿を。
私たちはそのまま私の実へ向かった。
母は突然の帰宅に驚いたが、私の顔を見るなり、何も聞かず玄関をきくけてくれた。
「のぞみ、まずがりなさい。信吾も疲れたでしょう」
「おばあちゃん、ごめん」
信吾がさくをげると、母は優しく首を振った。
「謝ることなんてないの。ここはあなたたちのでもあるんだから」
その言葉を聞いた瞬、張り詰めていたものがしだけ緩んだ。
私はバッグを置き、リビングの子に座った。が急にくなり、体の力が抜けていく。信吾も隣に座り、リュックを抱えたまま黙っていた。
テーブルのに母がお茶を置いてくれた、私のスマートフォンが震えた。
画面には、達の名が表示されていた。
最初の1回目はなかった。
2回目も、3回目も、私は画面を見つめるだけだった。
母が配そうに私を見た。
「なくていいの?」
私はゆっくり首を横に振った。
「まだ、いい」
達は診察が終わったのだろう。いつものように私が迎えに来るとい、病院の待か玄関先で話をかけているはずだった。
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数が過ぎた。
着信は何度も続いた。途でメッセージも届いた。
「終わったぞ。どこにいる?」
「く来い」
「何をしているんだ」
「ふざけるな」
文字が並ぶたび、私は胸の奥がたくなった。
その言葉のどこにも、私への配はなかった。
ただ、自分が困っていることへのりだけだった。
夕方になり、信吾が私の横に座り直した。
「母さん、そろそろ話す?」
私は頷いた。
「そうね」
スマートフォンがまた震えた。
私は呼吸をして、通話ボタンを押した。
「もしもし」
「おい、どうした? 病院の診察が終わってから何経ってるとってるんだ。なぜ俺を迎えに来ない?」
話越しの達の声は、りで荒れていた。
背には病院のざわめきが聞こえた。誰かが歩く音、受付の案内の声、の音。そので、達だけが自分のりを隠そうともしていなかった。
私は静かに言った。
「迎えにはかないわ」
「は?」
「あなたのような嘘つきとは、2度と関わりたくないからよ。もうあなたとは緒に暮らせない」
話の向こうで、達が息を詰まらせた。
「俺が嘘つき? それはどういうだ」
まだ、とぼけるつもりなのだ。
その声を聞いた瞬、私は議なほど静になった。
リビングの計の針がく音が、やけにはっきり聞こえた。信吾は隣で唇を結び、私の言葉を待っている。母はしれた台所で、何も言わずっていた。
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私はスマートフォンを握り直した。
「あなた、このコーヒーをんで、が変わったけど豆を変えたのかって聞いてきたことがあったわよね」
「ああ。そんなこともあったな。それがどうした」
「なぜ、そんな嘘をついたの?」
「おいおい、なんでそれを嘘だとうんだよ。が分からないぞ」
達は苛ったように笑った。
その笑い方も、もう私には通用しなかった。
「だって、あのあなたはコーヒーをめるはずがなかったのだから」
私は語ずつ、ゆっくりと言った。
話の向こうで、達の呼吸がわずかに乱れた。
「何を言ってる」
「あの、コーヒーメーカーには豆が入っていなかったの。信吾が買い忘れていたから。サーバーのも空だった。だから、あなたがコーヒーをめるはずがない」
隣で信吾がさく肩を震わせた。
自分の買い忘れが、こんな形で真実につながったことに、複雑ないがあるのだろう。
私は続けた。
「いつもののコーヒー豆が切れていると分かったら、またあなたの嫌が悪くなるとって、私はびくびくしていたわ。でもあなたは、何事もなかったようにコーヒーのを言ってきた。にみがあるって」
達は黙っていた。
私はその沈黙に向かって言葉をねた。
「なぜ、あなたはコーヒーをんだと嘘をついたの? 答えは簡単よね。
自分が普段通りにいるふりをしたかったから」