"田舎姑の一億円裁き" 第2話
かよ子はゆっくりと顔をげた。
背筋をすっと伸ばす。
涙は見せない。
ここで取り乱せば、それこそこのしい嫁のうつぼだ。
彼女は能面のようにすべてのを消しり、目のにいるレナをまっすぐに見つめ返した。
その瞳の奥に、たく、いが宿っていた。
それは単なるりやしみではなかった。
もっとく、決して消えることのない灼のマグマのような決だった。
この瞬、佐藤かよ子はに誓った。
この屈辱を決して忘れない。
私を、そして私が守ってきたすべてを侮辱したこの女に、ゆっくりとをかけて、最も痛烈な方法で復讐する。
まだ誰もらなかった。
祝福のに、1の穏やかな母親が、静かな復讐者へとまれ変わったことを。
レナの残酷な言が引き起こした凍りつくような空気は、司会者の転によって、すぐに何事もなかったかのようにかき消された。
しい余興が始まり、派な映像が流れ、祝福の音楽が鳴り響く。
まるで悪でも見ていたかのように、披宴は再び華やかなを取り戻していった。
しかし、かよ子のだけは、あの瞬に取り残されたままだった。
彼女は完璧な笑顔の仮面を顔に貼り付けた。
親族への挨拶回りでは、「素らしいお嫁さんですね」という言葉に、「もったいないくらいです」
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と微笑んで返した。
友たちのテーブルでは、健太の幼い頃のい話に相槌を打ち、楽しそうに笑って見せた。
その完璧な演技に、誰も彼女のの内で吹き荒れる嵐には気づかなかった。
ただ、グラスを持つ指先だけが、かすかに震えていた。
披宴の終盤、健太が恐る恐るかよ子のもとへやってきた。
「母さん」
彼は周囲の目を気にするように、しをかがめた。
「さっきは……レナが悪かった。ごめん」
その謝罪は、あまりにも軽く響いた。
彼の目は妻の顔をうかがうように泳ぎ、その声には母親をかばう覚悟も、妻をいさめるさもじられなかった。
かよ子は息子の顔をじっと見つめた。
自分が塩にかけて育てた息子は、いつからこんなにも骨のない男になってしまったのだろう。
「いいのよ、健太。レナさんも疲れていたのでしょう」
かよ子はそう言って、優しく微笑んだ。
その微笑みが、息子に対する最のだったのかもしれない。
これ以、けない息子に何かを期待するのはやめよう。
彼はもう、自分のらないになってしまったのだ。
その諦めが、彼女のをさらにたくした。
披宴が終わり、慣れないドレスやタキシードから解放された々が満げな顔で引きげていく、かよ子は誰よりもく支度をえた。
そして、誰にも告げずに1でホテルをにした。
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引き物のさが、今の屈辱のさとなって両肩にのしかかる。
京駅のホームは、夜の幹線に乗り込む々で混みっていた。最終の京都き幹線に乗り、指定された席に腰をろすと、かよ子は初めての底からい息を吐いた。
仮面をした顔には、もはや何のも浮かんでいなかった。
ただ、い疲労と、氷のような虚無だけが広がっていた。
やがて幹線は滑るようにホームをれた。
窓のでは、京の夜景が猛烈な速度でろへ流れていく。無数のの粒が点になり、線になり、そしてに溶けていった。
あのの1つ1つに、々の営みやがあるのだろう。
自分がかつて憧れ、息子を送りしたこの都会が、今はひどくたく、敵に満ちた所にえた。
レナの言葉が何度も元で蘇る。
田舎くさい。
恥ずかしい。
その言葉は、かよ子個だけに向けられたものではなかった。
彼女がまれ育った。
守り続けてきた仕事。
き夫と共に築きげてきたささやかな。
そのすべてを、根こそぎ否定する響きを持っていた。
夫は京友禅の職だった。
数はなかったが、布のに広がる鮮やかな世界を誰よりもしていた。
彼は、よく言っていた。
「かよ子。この仕事はな、ただの物づくりやない。本の、京都の魂を、次の代へつないでいく仕事なんや」
夫が病で急逝した、かよ子はを畳むことも考えた。
女1つで伝統というい板を背負うのは、簡単なことではなかった。