"7時15分の黒い日記" 第2話
その夜も、佐藤はアパートのさな机に向かい、記をいた。部には古い蛍灯のいが落ちていた。佐藤は万を取り、几帳面な文字でいた。
昭53415。今、しい乗客が乗ってきた。715分の留所。美しいだ。
それが、にらかになるい執着の記録の始まりだった。
子は、佐藤の線に気づいていなかった。毎朝の挨拶、折交わすい世話。子にとって佐藤は、ただの親切なバス運転にすぎなかった。
だが、佐藤の記は、にに細かくなっていく。
昭5353。彼女は今も715分に乗した。いピンクのブラウスを着ていた。髪をろで1つに結んでいた。疲れているようだったが、笑顔で挨拶してくれた。
昭53718。今で95目。彼女の名をりたい。どこにんでいるのか。どんな活をしているのか。すべてをりたい。
佐藤は、運転として子を見ているのではなくなっていた。
乗客の1ではなく、毎朝必ず自分のに現れる“特別な”として見始めていた。
そして、その線はしずつ、普通の親切かられていった。
昭542、佐藤は子のの薬指に指輪がっていることに気づいた。
バスに乗ってきた子がつり革につかまった、そのさなが佐藤の目に入った。佐藤は瞬、ハンドルを握るに力を込めた。
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表は変えなかったが、胸の奥にたいものが落ちていくのをじていた。
その夜、佐藤は記にいた。
昭5426。彼女が結婚したようだ。薬指に指輪をしていた。胸が締めつけられるいだ。しかし彼女は僕のバスに乗り続けてくれている。それだけで救われる。
結婚しても、子は仕事を続けた。毎朝同じバスに乗り、同じように「おはようございます」と挨拶した。
佐藤はそれを、自分への救いのように受け止めた。
彼女はまだ自分のに現れる。自分のバスに乗ってくれる。それだけで分だ。
そう言い聞かせようとした。
しかし、子がの男の妻になったという事実は、佐藤のをしずつ蝕んでいった。
昭54612。彼女の夫はどんな男なのだろう。彼女を幸せにしているのだろうか。僕ならもっと切にできるのに。
昭55に入ると、佐藤のはさらに変わっていった。休になると、子がりる留所の周辺を歩くようになった。のを何度もき来し、偶然を装って子の姿を探した。
やがて佐藤は、子のをつけ、自宅を突き止めた。
浜松内の宅にある、古い本。子は夫の浩と姑の静と暮らしていた。
昭55410。彼女のを見つけた。夫と姑と暮らしている。夜遅く帰宅する彼女を、誰も迎えに来ない。僕なら必ず迎えにくのに。
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それから佐藤は、夜な夜な子ののくにつようになった。柱の、細い、向かいの空き。タバコを吸いながら、子が帰宅するのを待った。
子が玄関に入る。のかりがつく。しばらくして、2階の部のかりが消える。
佐藤はそれを見届けてから、ようやく帰った。
昭559頃から、子は奇妙な違を覚え始めた。
誰かに見られている。
のに、見慣れないタバコの吸い殻が落ちているが増えた。朝、玄関を掃除する、子はそれを見つけて眉をひそめた。自分の族は、その銘柄を吸わない。
勤、背から線をじることもあった。振り返っても、そこには誰もいない。けれど、胸の奥にざらりとしたが残った。
ある晩、子は夕の片付けを終えた、夫の浩に打ちけた。
「ねえ、最、誰かに見られている気がするの。のにも変なタバコの吸い殻が落ちていて、気持ち悪いの」
浩は聞から顔をげたが、すぐにさく笑った。
「気のせいだろう。神経過敏なんじゃないか。仕事で疲れてるんだよ。く寝た方がいい」
子は言葉を失った。
その横で、姑の静がたく言った。
「若い女が夜遅くまで働いているから、そういう変な目で見られるのよ。だから言ったでしょう。女はにいるべきだって」
子は膝のでを握りしめた。
助けを求めたはずなのに、責められている。
本当に気のせいなのだろうか。自分が考えすぎているだけなのだろうか。