"43番の帰還" 第1話
それは、誰も予していなかった朝だった。
9、京都の静かな宅で、学2だった女が忽然と姿を消した。名は彩佳。母の恵子、父、そして兄の暁と暮らしていた、ごく普通の庭の女だった。
その、彩佳は夕方まで所の公園で遊んでいたはずだった。いつものようにランドセルを置き、へて、友達と遊んで、が傾く頃にはへ帰ってくる。母の恵子も、父も、兄の暁も、そうっていた。
けれど、彩佳は戻らなかった。
最初に異変に気づいたのは母の恵子だった。台所で夕の支度をしていた恵子は、計を何度も見た。鍋の湯気がくがり、噌汁の匂いがのに広がっていたが、玄関の扉がく音はしなかった。
「彩佳、遅いわね」
恵子はを拭き、玄関へ向かった。靴箱のにち、を覗いた。暗くなったには、仕事帰りのや犬を連れた老が通るだけで、彩佳の姿はなかった。
やがて父も帰宅し、兄の暁も配そうに玄関を見た。族はすぐに公園へ向かった。ブランコはにさく揺れていた。砂にはさな跡が残っていたが、それが彩佳のものかどうかは分からなかった。
「彩佳!」
恵子の声が公園に響いた。父も、暁も、所のたちも名を呼びながら探し回った。けれど返事はなかった。
警察がき、域の民たちも加わった。
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公園、通学、川沿い、空き、商、防犯カメラ。考えられる所はすべて調べられた。だが、目撃者はなく、がかりもなく、ただ「いなくなった」という事実だけが残った。
が経つにつれ、捜索の声は次第にさくなっていった。聞の記事はさくなり、テレビの報も減り、やがて々の記憶から事件の輪郭はれていった。
けれど、族にとってはまなかった。
母の恵子は毎朝、玄関に置かれた彩佳の靴を見つめた。父は仕事から帰るたび、のに彩佳の声がないことに息を詰まらせた。兄の暁は、学で妹の名を聞かれるたび、何も言えなくなった。
京都府警の失踪者掲示板には、古びた顔写真が何枚も並んでいた。その央に、彩佳の笑顔の写真が貼られていた。
写真のには、こう記されていた。
「方 201310」
くのはその掲示板を度は目にした。だが、が経つにつれ、それは過の来事として扱われていった。
それでも恵子にとっては、終わらない悪だった。
9というが過ぎても、彩佳は8歳のまま、写真ので笑っていた。
そしてその空を破るように、ある朝、真実は突然姿を現した。
その朝、警察署の受付はいつも通り静かだった。
職員が類を理し、話の対応をし、制姿の警察官が廊をき来していた。誰も、そのが9の事件を再びかす朝になるとはっていなかった。
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入の自ドアがき、1の女が入ってきた。
制姿ではなかった。特別に目つ装でもなかった。細い体に褪せた着をまとい、いを歩いてきたような取りで、彼女は受付のにった。
受付の職員が顔をげた。
「どうされましたか」
女はすぐには答えなかった。代わりに、胸元に抱えていたをゆっくり差しした。
それは古びたチラシだった。折り目がつき、端は擦り切れ、印刷された文字はしくなっていた。だが央の写真だけは、はっきり残っていた。
8歳の彩佳の笑顔。
職員はチラシを受け取り、写真を見た。次に、目のにつ女の顔を見た。
その瞬、受付の空気が変わった。
職員の指先がわずかに震えた。チラシのの幼い顔と、目のの女の顔がなったからだった。齢は違う。表も違う。けれど、目元と元に、確かに同じ面があった。
くにいた警察官がを止めた。
「名は?」
警察官が慎に尋ねると、女は乾いた唇をかした。
「私は……彩佳です」
その名が告げられた瞬、にいた全員が息をんだ。
9、あれほど探しても見つからなかった女。域が名を呼び、警察が必に方を追い、けれど何のがかりも残さなかった女。
その彩佳が、今、自分ので警察署にっている。
職員たちはすぐに司へ報告した。
女は会議へ案内され、確認が始まった。机のには、9の資料、当の写真、そして彼女が持ってきた古いチラシが並べられた。