"十年目の数珠" 第2話
まだは暗く、たい空気が本堂のに沈んでいた。蝋燭のが細く揺れ、読経の声がく響く、田は吉田の隣に座った。
彼のには、茶の製の数珠があった。
田はその数珠を、ゆっくりと指先で繰っていた。さな属の飾りがついており、かすたびにかすかな音をてた。その数珠は、数に母親の葬儀の際に贈られたもので、田がいつもにつけていた切な品だった。
田は何度もそれを見ていた。
田が考え込む、困った、あるいは祈るような気持ちになる、必ずその数珠に触れていたからだ。
朝のお勤めが終わると、参加者たちは簡素な朝を取った。
田は普段よりししかべなかった。箸を持ったまま茶碗のを見つめ、の参加者との会話にもあまり加わらなかった。
吉田が再び取引先の話を切りそうとした。
「田さん、昨の件ですが」
その瞬、田は箸を置いた。
「し、の空気を吸ってきます」
そう言って席をった。
吉田は追わなかった。ただ、っていく田の背をじっと見ていた。
午には自由が与えられた。
参加者たちはそれぞれ、境内を散歩したり、部で休んだりした。田は1で寺の裏にあるを歩いた。
田は緒にこうとしたが、田は首を振った。
「し1でいたい」
その声には、誰にも踏み込まれたくない響きがあった。
広告
田はそれ以誘わなかった。
夕方頃、田は寺の庭で俊とく話しているところを目撃された。
2は庭の端にっていた。田はに数珠を持ち、俊はうつむきがちに話を聞いていた。くから見ていた田には、会話の内容までは聞こえなかった。
ただ、そのの田の表が固くなっていたことだけは覚えていた。
俊の方も、いつも以に沈んで見えたという証言がに残った。
夕方のお勤めのになると、田はの参加者よりく礼拝をした。何度も何度も額を畳につけ、そのきは100回を超えたという。
額には汗がにじみ、息も荒くなっていた。
お勤めが終わっても、田はしばらくそのをかなかった。職が声をかけようとすると、田はようやく顔をげ、く礼してからちがった。
その夜は特に寒かった。
10旬の寺では、夜の気温が気にがる。参加者たちはめに寝ることになり、田も田と緒に部に入った。
部には布団が2組敷かれていた。障子のでは、がかすかに鳴っていた。
田は横になったも、田が眠れていないことに気づいていた。隣の布団から、何度も寝返りを打つ音が聞こえた。畳が擦れる音。浅い息遣い。折、数珠の属飾りがさく触れう音もした。
夜2頃だった。
田が布団から起きがる気配がした。
広告
田は半分眠ったまま、障子の方でがくのをじた。田はトイレにったようだった。そのもしばらく、部ので何かがく気配があった。
田は声をかけなかった。
義兄は眠れず、しへただけだろう。
そうった。
翌朝、田は田より先に起きていた。
朝4のお勤めのだった。
田が目を覚ました、田の布団は空だった。布団はきちんと畳まれていた。田は、田が先に本堂へ向かったのだろうとった。
それが、田誠を見た最の朝になるとは、誰もらなかった。
19851017、昭60の朝4。
お勤めをらせる鐘の音が、まだ暗い寺の境内に響いた。たい空気の、参加者たちは1、また1と本堂へ集まってきた。
田も支度をえ、廊を急いだ。
しかし本堂に入った、田の姿はなかった。
田は最初、し議にっただけだった。田は自分より先に部をていた。だから当然、本堂にいるとっていた。
職がお勤めを始めると、田は何度も周囲を見回した。
田はいない。
吉田はいた。
女性信者たちもいた。
俊も本堂の端に座っていた。
だが田の姿だけがなかった。
職は、田が体調を崩して休んでいるのだろうと考えた。お勤めはそのまま30分ほど続いた。
そのも田は現れなかった。
お勤めが終わると、田はすぐに部へ戻った。
障子をけた瞬、妙な静けさをじた。