"十一年目の父欄" 第4話
「まれてすぐに預ける方法があると説されました。私1では育てられないなら、それが現実なのかもしれないと……」
幸子はすぐには答えなかった。
台所の計の音だけが、部に響いた。
「今、結論をす必はありません」
幸子は静かに言った。
「しをください」
だが、幸子ののでは、すでに方向が固まりつつあった。
息子はにいる。
将来を築こうとしている。
しかし、まれてくる命はすでにしている。
誰かが責任を引き受けなければならない。
里奈1に背負わせるわけにはいかない。
幸子は区役所へを運び、戸籍と民登録の扱いについて説を受けた。未婚の母として届を提するの続き、父の認がないの記載、扶養や保険の扱い。窓で聞く内容は複雑だった。
それでも、選択肢は見えていた。
届を受理し、戸籍に記載すること。
祖母として監護すること。
必な続きをねれば、活を始めることはできる。
幸子は里奈に伝えた。
「子どもたちを施設に送る必はありません。で引き受けます」
里奈はく沈黙した。
経済にも精神にも限界にかった彼女にとって、幸子の提案は唯の現実な選択肢に見えた。
産はだった。
双子の男の子と女の子がまれた。
男の子は優太。女の子はひなと名付けられた。
広告
名は幸子が考えた。響きが穏やかで、将来に余がある名にしたかった。
届は期限内に提された。当初、父欄は空のままだった。戸籍の姓はとした。扶養、健康保険、児童当の申請。幸子は必な類を揃え、説を受けながら続きをめた。
息子の名をどう扱うか。
浩にらせるかどうか。
幸子は何度も考えた。
渡米直であり、事業も定していない。ここで事実を伝えれば、浩は帰国を選ぶかもしれない。ようやく掴みかけたを断ち切る結果になるかもしれない。
けれど、らせないままでいることにもさがあった。
幸子はをいた。
里奈の妊娠。
双子の誕。
戸籍の扱い。
息子を責める言葉は避けた。ただ、事実だけをき、判断は任せると記した。
封筒に宛名をき、机のに置いた。
しかし翌、幸子はそのを投函しなかった。
理由は1つではなかった。
息子の事業が軌に乗るまで待つべきだというい。里奈のが定な段階で、部に広げるべきではないという配慮。そして何より、今らせればすべてが崩れるかもしれないという直。
幸子は伝える期をしだけろにずらした。
数か。
あるいは1。
そう考えていた。
その判断が、11に及ぶことになるとは、その点ではっていなかった。
青里奈は、産しばらくに滞した。
広告
最初の数かは、幸子と里奈が育児を分担する形で活していた。夜泣き、授乳、通院、予防接種。双子の世話は像以に変だった。
幸子は経験を頼りにいたが、里奈は次第に言葉を失っていった。
経済なだけではない。自分の将来が見えないことが、彼女にくのしかかっていた。
里奈は働きを探した。履歴を作成し、勤務の面接にもを運んだ。だが、双子を抱えた未婚の母に対する雇用環境は厳しかった。保育施設への入所もすぐには決まらなかった。
スーパーのレジ業務、倉庫理、期のアルバイト。
収入は定せず、体調も揺らいだ。
夜の育児との仕事がなり、休息は分ではなかった。周囲の支援は限られ、実からの協力も期待できない。
産から1がづいた頃、里奈はをれる決断をした。
確な宣言ではなかった。
「仕事が見つかったので、別の所で活をて直したいんです」
そう言っただけだった。
子どもを連れてくという選択肢は示されなかった。経済にも精神にも、余裕がないことはらかだった。
里奈は数回の話連絡を残したが、やがてその回数も減った。所は変わり、勤務先も定しなかった。連絡は途絶え、所は分からなくなった。
幸子は2の子どもをで育てることを、正式な形にづける必があると判断した。
区役所での続きは続いた。児童当の受、健康保険の扶養、学への提類。