"いただきますのない食卓、私は家を出た" 第9話
たい恐怖が元から湧きがってくるのをじていた。
夜 8 を過ぎた頃、男の翔太がイライラとした取りでリビングに入ってきた。
「おい、今も晩飯はないのかよ。洗面所の洗濯物も放置のままだし。着てくシャツがないんだけど」
翔太はネクタイを乱暴にし、ソファの箸置きの横に座り込んだ。
その隣では姑のかよが「が痛い、お薬はどこ」と力なく独り言を繰り返している。
「うるさいな。俺だって着るスーツがなくて困っているんだ」
夫の孝志はスマートフォンから目をさずに鳴り返した。
その画面にはみわへ宛てに送ったメッセージの履歴が並んでいる。
しかし、どれも既読すらついていない。
「あの女、俺がカードを止めて活費を止めたっていうのに、向に連絡してこない。体どこで何をしているんだ?まさかもないのにホテルにでも泊まっているのか」
苛ちと焦りが入り混じった孝志の声が、散らかった部に響く。
そこへ階段から次男の匠がりてきた。
「ねえ、蔵庫に何もないんだけど。俺お腹空いた。お父さん、またピザでも頼んでよ」
誰も片付けようとしないテーブル。
空のペットボトルやコンビニ弁当のゴミが散乱している。
その異様な景の真んで、女の彩佳は静かにをいた。
もうやめようよ。
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彩佳のく震える声に、男たちの線が斉に集まった。
「ああ、何がだよ」
翔太が嫌に眉を潜める。
彩佳は通勤カバンのからあの冊の古いノートを取りした。
そしてゴミが散らかったテーブルの隙を押しのけるようにして、そのノートを置いた。
これ読んでみて。お母さんが台所の引きしの奥にしまっていたもの。
「なんだこれ?計簿か」
孝志が面倒臭そうにを伸ばし表をめくった。翔太と匠も何気なくそのページを覗き込む。
最初はただのレシピのメモかとったのだろう。
しかし数ページめくったところで、孝志のがぴたりと止まった。
その目に、信じられないものを見るような驚きのが浮かぶ。
10 5 、孝志さん。最帰りが遅く胃の調子が悪いみたい。の朝は消化の良いおかゆとお汁の効いた卵焼きにしよう。
4 15 、翔太。最残業続きで顔が悪い。お弁当にはニンニクとお肉でスタミナがつくおかずをめに入れる。
11 2 、匠。から学の試験。夜には胃にもたれない温かいおうどんを作ってあげること。
孝志の目が文字のを何度も往復する。
翔太も匠も言葉を失っていた。
「お母さんはね、ただご飯を作っていたんじゃないの」
彩佳の目から再び涙が溢れした。
「お父さんの胃の調子も、翔太お兄ちゃんの残業の疲れも、匠の試験の予定も、おばあちゃんのお薬のも血圧のことも、全部お母さんがで見て、で考えてくれていたんだよ」
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リビングがを打ったように静まり返った。
計の秒針の音だけがやけにきく聞こえる。
「俺たちが……」
翔太が震える声でつぶやいた。
毎自分がスマートフォンを見ながら無言でべていた唐揚げや弁当。
それが自分の体調を配して作られた特別なおかずだったという事実に、ようやく気がついたのだ。
「そんなこと言ったって、これは母親の仕事だろう。主婦ならこれくらいやって当たりだ」
孝志はノートから目を逸らし、がるように言い捨てた。
しかしその声は、先ほどまでの勢いを失い、か細くずっていた。
「当たりじゃないよ」
彩佳が初めて父親に向かって声を荒げた。
「お父さん、お母さんに最に『ありがとう』って言ったのいつ?最に『いただきます』って言ったのいつ?いつなの?」
孝志は息をみ、何も言い返せなかった。
記憶をどんなに遡っても、妻に対して謝の言葉をにした記憶がてこない。
「お母さんはね、私たちに見せるためにこのノートをいていたんじゃないの。誰にも見えない所で、ずっと私たちのことをってくれていたの。それなのに私たちはお母さんのことを空気みたいに扱って、料を稼いでこないからってに見て」
彩佳は涙を拭いながら父親をまっすぐに見据えた。
「お父さんはおを取りげれば泣いて戻ってくるって言ってたよね。
でも違うよ。お母さんはおが欲しくてこのにいたんじゃない。族とのつながりが痛かっただけなんだよ」