"いただきますのない食卓、私は家を出た" 第3話
いつも頼んでいる健康料を取りそうとしてふときを止める。
何かがおかしい。
蔵庫の扉が妙にすっきりしているのだ。
数秒、孝志は気がついた。
結婚したから27、蔵庫の扉にずっと貼られていたきの献表が綺麗さっぱり消えっていたのだ。
古いテープの跡すら残さず、まるで最初から何もなかったかのように。
その、孝志の胸の奥にほんのさな違が芽えた。
だが彼はすぐに扉を乱暴に締め、その違を振り払った。
「くだらん。さっさと仕事の準備をするか」。
孝志は洗面所へと向かった。
しかしこの、彼らはいることになる。
自分たちがどれほどみわというに頼り切り、甘え切ってきてきたのかを。
これから直面する本当の困難の入りに、まだったばかりだということを。
洗面所へを踏み入れた孝志は鏡ので寝癖を直しながら、無識にを伸ばした。
いつものように洗濯のに置かれた脱かごのに、今着るべきワイシャツと着が綺麗に畳まれて置かれているはずだった。
だが彼のが掴んだのは空だった。
「ん?」
孝志は線を落とす。そこには何もなかった。
首を傾げながら急いで寝のクローゼットへと戻る。
クローゼットの扉をけ、ハンガーラックに目をらせた。
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「おい、冗談だろ」。
わず声が漏れた。シワつなくアイロンのかかったワイシャツが枚もかかっていないのだ。
あるのは週末用のカジュアルなシャツと季節れの着だけ。
孝志は慌てて洗濯の横にある脱かごのを覗き込んだ。
そこには昨自分が脱ぎ捨てたままの、汗と居酒のタバコの匂いが染みついたシャツがぐしゃぐしゃになって放り込まれていた。
「ふざけんなよ、みわのやつ。洗濯もしてないのか」。
苛ちを爆発させながら孝志はクローゼットの奥から以着ていない、し黄ばんだ古いシャツを引っ張りし、乱暴に袖を通した。
首回りがしきつく、窮屈なじが募る。
曜ごとに着るシャツのまで妻がローテーションを組んで用してくれていたことに、彼はこの初めて気がついた。
その頃、リビングでは姑のかよがテーブルのを探し回っていた。
「ないわ。私の薬どこにったのかしら」。
毎、テーブルの箸置きの横に置かれたさなケースには、血圧の薬と胃薬が回分ずつ分けにされて入っているはずだった。
しかしそのケースは空っぽだった。
かよは杖をつきながら台所へき、あちこちの引きしをけ閉めする。
「孝志、私の薬箱どこからない?」
イライラしながら階段をりてきた孝志は眉にシワを寄せた。
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「るかよ。母さんの薬の管理なんてみわに任せきりだっただろう」。
「だって今の分がないのよ。薬の補充のはいつだったかしら。それに来週の通院は何の何だっけ?」
かよの声には、先ほどまでの余裕はなくなり、のが混じり始めていた。
いつもならみわ子が「姑さん、今はお薬のですよ」と優しく声をかけ、病院の予定も全て彼女が把握してで送り迎えをしていたのだ。
「俺がるわけないだろう。病院に話して聞けよ」。
孝志は苛ちをぶつけるように吐き捨てるとカバンを掴んで玄関へと向かった。
靴を履こうとして再びきが止まる。
いつもなら綺麗に磨かれた靴が揃えて置かれているはずなのに、今並んでいるのはつま先がで汚れ、かかとがしすり減った靴だけだった。
孝志は舌打ちをして靴を突っ込むと勢いよくドアをけてをていった。
誰もいなくなったに取り残されたかよはポツンとリビングのソファに座り込んだ。
静かすぎる。
テレビもつけていないのは、計の秒針の音だけが気に響いていた。
「本当に帰ってこない気なのかしら」。
いつもなら所のスーパーのタイムセールで買ってきた材や、昨晩の残りの煮物を綺麗に盛り付けた昼がテーブルに並ぶだった。
かよはお腹の虫の音を聞きながらい腰をげて蔵庫をけた。
漬け物も煮物の残りもおにぎりも何もないじゃないの。