"十万円レンズの末路" 第4話
全ては揃った。
あとは、義雄が番調子に乗る瞬を待つだけだった。
聡子は部のを見回した。
テーブルのには、義雄のカメラ用品がいくつも置かれている。価な材ばかりだった。けれど、そのどれもが、聡子にとっては夫の趣ではなく、嘘と搾取の証拠にしか見えなかった。
聡子は静かにちがり、玄関脇にきなバッグを用した。
義雄の荷物を詰めるためのバッグだった。
類、充器、カメラ用品、用品。
必最限のものだけを、淡々とまとめていく。
その作に迷いはなかった。
い結婚活の終わりが、静かな夜ので形になっていった。
そのの夕も、卓にはい焼き魚と具のない噌汁だけが並んでいた。
義雄は皿のを満そうにつつきながら、信じられない言葉をにした。
「なあ聡子、来るしいレンズさ、予約しておいたわ」
聡子の箸がぴたりと止まった。
「また買うの? 減なのに?」
義雄は悪びれずに笑った。
「ボーナスもカットだったし、正直きついけどさ。でもこれ限定品なんだよ。おがもっと費を夫すれば、あと数万円は浮くだろ」
へらへらと笑いながら、当然のようにもっとしろと言い放つ夫。
聡子はゆっくり箸を置いた。
そして無言でちがった。
「おい、どこくんだよ。おかわりは?」
義雄の声を無して、聡子は部の奥へ向かった。
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しばらくして戻ってきた聡子のには、分い封筒があった。それを義雄の先に、叩きつけるように置いた。
「これを見て」
「なんだよ、これ。レンズの許証か?」
義雄は馬鹿にしたように笑いながら封筒をけた。
けれどを見た瞬、顔から余裕が消えた。
に入っていたのは、聡子の座の取引細だった。そこには、毎振り込まれる報酬の記録がびっしりと印字されていた。
「は……なんだよ、これ。桁の違いだろ?」
「いいえ、違いじゃないわ」
聡子は静かに言った。
「私が副業で稼いでいる1かの純利益よ」
絶句する義雄のに、聡子はもう1枚のを突きつけた。
義雄が隠していた、増額された賞与と特別当が記された本物の与細だった。
「義雄さん、減されたって嘘をついたよね」
義雄の喉がごくりと鳴った。
「私に節約をいて、自分は10万円のレンズを買い漁っていた。でも残だったわね」
聡子は義雄をまっすぐ見た。
「私の収入、あなたを追い抜いちゃったの。しかも3倍」
義雄の顔がみるみる青ざめていった。
「ふ、副業って……お、いつのに」
「あなたが私を『にいるだけの女』だと見しているよ」
義雄は慌ててを乗りした。
「待てよ、聡子。悪かった。嘘は謝る。でも、これだけ稼いでるなら計は泰じゃないか。なあ、仲良くやろうぜ」
あまりにも浅ましい言葉だった。
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聡子は、底軽蔑した線を義雄へ向けた。
「仲良く? 自分の妻に嘘をついて、ひもじいいをさせておきながら、よくそんなことが言えるわね」
義雄は言葉に詰まった。
「残だけど、あなたの席はもうここにはないわ」
聡子は、あらかじめ用していた婚届を義雄の胸元に突きつけた。
「私の稼ぎは、1円たりともあなたには使わせない。今すぐこのからてって」
「ここは俺のだぞ!」
義雄が叫んだ。
聡子は静に首を横に振った。
「いいえ。このマンションの更料も費も、私がこの座から払っているのよ。名義もとっくに私に変えてあるわ」
言い逃れのできない事実の連打に、義雄はをぱくぱくとかすだけだった。
聡子は玄関へ歩き、すでにまとめてあった義雄のバッグを廊へ押しした。さらにカメラ材の入ったバッグも玄関先へ置いた。
「さようなら、義雄さん」
聡子の声は静かだった。
けれど、そこには絶対な拒絶があった。
「これからは、その自のレンズで、自分の惨めな姿でも撮していればいいんじゃないかしら」
義雄は震えるでバッグを掴んだ。
全てを失ったことに、ようやく気づいた顔だった。
ドアが閉まる直、義雄は何かを言おうとした。けれど、聡子はもう聞かなかった。
がちゃん。
扉の音が、偽りに満ちた結婚活の終止符になった。
義雄がをてってから、1週が経った。
あの、きなカメラバッグを引きずりながら、何度も振り返っていた義雄のけない顔を、聡子は度も見送らなかった。