"十万円レンズの末路" 第2話
聡子はその数字を黙って見つめた、何も言わずに蔵庫の扉を閉めた。
トン、というさな音が、静かな台所に虚しく響いた。
「飯ある?」
義雄は価なカメラ用品を無造作にテーブルへ置き、子に座った。
「あるよ」
聡子が差ししたのは、さめの皿に盛られた野菜炒めだった。肉は探さなければ見つからないほど、ほんのししか入っていない。
義雄は箸で皿の底をつつきながら、満そうに眉を寄せた。
「なあ、肉なくないか?」
「節約してるから。減だって言ったのは義雄さんでしょう」
聡子が淡々と答えると、義雄はを尖らせた。
「まあ、そうだけどさ」
その横で、テーブルののスマートフォンが何度もった。
「来週、〇〇へ撮にこうぜ」
「夜景を撮るなら空気が澄んでる今が最だぞ」
通を見るなり、義雄の表はぱっとるくなった。
「あ、来週さ、また撮にかけてくるわ」
「またくの?」
わず聡子の声が尖った。
けれど義雄は平然としていた。
「いいだろ。息抜きだよ。仕事できついんだから、これくらいさせてくれよ」
そう言う彼の指は、休むことなくスマートフォンの画面を滑り続けていた。
聡子はゆっくり箸を置いた。
目のには、ほとんど野菜だけの寂しい皿。
テーブルの向こうには、しく買われたばかりのカメラ用品。
減、節約、。
義雄がにする言葉と、目ので繰り広げられる現実が、どうしてもつながらなかった。
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胸の奥に芽えたさな違は、今や無できない形を持ち始めていた。
かち、と隣の部で気が消える音がした。
しばらくすると、義雄の無神経ないびきが聞こえてきた。聡子は暗のでじっとかず、その音がい眠りに変わるのを待った。
計の針は2347分を回っていた。
聡子は音をてないように慎にちがり、仕事用の古いノートパソコンをいた。ぱっと広がった青いが、疲れ果てた聡子の顔を照らす。
カタ、カタ。
控えめなタイピング音が、静かな部に落ちていく。
画面に並んでいるのは、YouTube画の台本だった。
これは義雄には言も話していない、聡子だけの秘密の副業だった。
もともと本を読むのが好きだった聡子にとって、物語を組みてるこのは、現実の苦しさを忘れられる唯の避難所だった。
「この言い回しなら、もっと聴者のに刺さるはず」
声にはさず、考を文字に変えていく。
夜0を過ぎると、肩は鉄のようにくなった。目の奥もじんじんと痛む。それでも指を止めるわけにはいかなかった。
1文字ずつ、活を守るための執を積みげていく。
その、隣の部でごろんときな音がした。
聡子の臓がねがった。反射にパソコンの画面を閉じかける。
けれど聞こえてきたのは、再びきないびきだった。
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聡子はく息を吐き、もう度画面に向きった。
ふと、昼の景が脳裏をよぎった。
「減された」とへらへら笑いながら、10万円いレンズを撫でていた義雄。
「きついから費を削れ」と言い放った無責任な。
おかしい。
減されたが、あんなに迷いなく価な買い物を続けられるはずがない。
聡子の指が、りでわずかに震えた。
わない計算。
見え透いた嘘。
証拠はまだなかった。けれど、違はすでに黒い疑いへと変わりつつあった。
聡子は奥歯を噛みしめ、さらにキーを叩いた。
今はまだ何も言わない。
問い詰めて逃げられるくらいなら、今は静かに準備する。
きげた台本の文字数が増えるたび、聡子の座の数字も着実に積みがっていた。それは義雄の像をはるかに超える額になりつつあった。
義雄は、聡子を「にいるだけの女」だとっている。
けれど実際には、聡子は夜の静けさので、自分自の力で収入を作っていた。
暗い部で、聡子の目だけが鋭くっていた。
積みげているのは、言葉だけではない。
義雄を奈落へ突き落とすための、静かな逆転の準備もまた、しずつんでいた。
その嘘が音をてて崩れたのは、洗濯物を洗濯へ放り込もうとした、何気ない瞬だった。
義雄のズボンを持ちげた、ポケットからくしゃくしゃになった1枚のがひらりと落ちた。