"盗まれた120頁" 第5話
極度のストレスで胃を壊し、固形物をまともにべられなかった体が、希望という特効薬に反応したのです。
母親の膝のには、袋が置かれていました。に入っているのは、誠が番好きだったの青いセーターです。
「して隠れて働いているなら、それでいい。らないから、とにかく温かいを着せて、ご飯をべさせたい」
2ののは、数に控えた息子との再会でいっぱいでした。
午1。
警察の案内で到着したのは、阪にある古びた鉄所でした。錆びた鉄のの奥から、械が属を削るい音が響いています。械油と鉄くずの匂いが、作業に充満していました。
の経営者は、申し訳なさそうに言いました。
「先週まで、確かにここで働いていた男です。無でしたが、与えられた仕事はきっちりこなす真面目な青でした。でも、警察が来ると噂になった途端、昨突然姿を消したんです」
遅かったという現実に、両親の顔が青ざめました。
しかし男は、更に痕跡を残していました。古びたスチール製のロッカーと、勤記録が打刻されたタイムカードです。
ロッカーのには、かかとが擦り減った全靴と、数着の作業着がありました。
母親はその作業着の袖にそっと触れました。そこにあったのは、誠のシャツに残っていたボールペンのインク汚れではなく、真っ黒な油汚れでした。
広告
本当に、あの子はペンを捨てて、ここで油まみれになって働いていたのだろうか。
警察は男がんでいたというくのアパートも確認しました。しかし部はすでにもぬけの殻で、歯ブラシ1本すら残っていませんでした。
極めて計画な逃でした。
鑑識の捜査員は、タイムカードの端から指紋を採取しました。特殊ながの表面に潜んでいた見えない線を浮かびがらせます。
それを、京から持参した誠のマグカップの指紋と照することになりました。
「鑑定結果がるまで、3ほどお待ちください」
阪の警察署の待で、2は壁の計を見つめながらを握りっていました。
もし彼なら、全国に配をかけて必ず見つけせる。
い失踪事件が、ついに「」として解決する。
誰もが、そう信じたい瞬でした。
そして午5。
い扉がき、担当の捜査員が歩いてきました。そのには、科学捜査の報告が握られています。
しかし、捜査員は両親の顔をまっすぐ見ることができませんでした。
「タイムカードの指紋は、誠さんのものと致しませんでした。全くの別です。過に別の事件を起こして逃の男でした」
静まり返った廊に、乾いた声だけが響きました。
父親は報告を奪うようにして見つめました。そこには「致」
広告
という無質な文字がはっきり記されていました。
何度その文字を指でなぞっても、結果は変わりません。
その瞬、母親のから袋が滑り落ちました。
に転がりた青いセーターは、誰にも着られることなく、たいリノリウムのに横たわりました。
5ぶりに灯った希望は、たった1枚の科学な報告によって踏みにじられました。
息子は阪にはいなかった。
しいを歩んでいたわけでもなかった。
ただ偶然がなっただけの、残酷なでした。
事態は再び振りしに戻りました。
彼らはまだりませんでした。
誠が京のたいのから、1mmもいていなかったという恐ろしい事実を。
阪での残酷なから、さらに5の歳が流れました。
20054。
誠の失踪から、10と2かが経過していました。
京にある名学の4階、第1研究。広さ30平米のその部で、1の初老の男が荷物を理していました。
彼の名は。
誠が所属していた研究の教授であり、今末で定退職を迎える男でした。
部の隅には、学のロゴが入った段ボール箱が積まれています。は用していたマホガニーの机の引きしをけました。
番の段の奥、ほかの類とはらかに違う、埃をかぶった分い茶封筒が眠っていました。
のしわの刻まれたがその封筒に触れた瞬、刻みに震え始めました。