"隠された十五年の物語" 第1話
平成の、群馬のに佇むさな町で、質素に暮らしてきた夫婦が願の古い平を現で購入した。
み慣れたをれ、憧れのがへと引っ越したその、所の々はのを祝い、さな拍を送った。
ところが、引っ越しからわずか、畑の隣が様子を見に訪ねた、玄関の扉はきっぱなしで、のは空っぽだった。
茶卓のにはたったつの湯呑みだけが残されており、の茶はまだほんのりと温かかったという。
布団も、類も、預通帳も、玄関の靴のまでも、跡形もなく消え失せていた。
争った痕跡はなく、遺も残されていない。
それなのに、夫婦の姿だけが、まるで煙のようにこの世から拭いられていたのだ。
なぜは、買ったばかりののを捨てたのか。
といういを経て、解体事のから現れたつの錆びた缶が、静かな町に隠された古い事件の真実を、ゆっくりと照らししていく。
これはく忘れられていたの女と、その名を胸に秘めきてきた夫婦の、にわたる静かな真実の物語である。
(お話を始めるに、チャンネル登録と評価を押していただけると変励みになります。どちらの域からご覧いただいているか、コメントで教えていただけると嬉しいです。
広告
それではお話を始めます。)
平成、群馬県部、々に抱かれたさな町に、そののは例よりしく訪れていた。
朝晩のえ込みはの気配を含み、町を取り囲む々の稜線はの方からうっすらと赤く染まり始めていた。
町の部からしれた所に、階建ての団が棟並んでいる角があった。
その団はくに建てられた古いもので、壁の塗装は剥げ、コンクリートの階段はに晒されてっぽく変していた。
それでもたちは皆、お互いの顔と暮らしぶりを熟しており、廊ですれ違えば必ず言言言葉を交わす、温かな所だった。
、曜の朝。
団階の角部から、の老がゆっくりと階段をりてきた。
歳の彼は背筋はまだしっかりしていたが、元は往の軽やかさを失っていた。
そのろから、歳の妻・静がすりを頼りに続いてりてくる。
柄で、いつもだしなみをきっちりえている女性だった。
階の踊りで、買い物帰りの主婦がに声をかけた。
「桜さん、静さん、いよいよ引っ越しなんですね」
「ええ、おかげさまで」
夫の桜は照れたようにをげ、静は丁寧にくお辞儀をした。
「願の戸建て、本当におめでとうございます」
広告
「ありがとうございます。らくお世話になりました」
主婦は何度も頷き、の背を見送った。
のには呂敷包みがつあるだけで、運びす荷物は何も残っていなかった。
の夕方、軽トラック台が来て、布団や茶卓、わずかな荷物を積み込み、すべて運びしていた。
以み慣れた部はすっかり空き、畳のにい差しがり注いでいるだけだった。
団の入ではち止まり、振り返ってんだ建物を見げた。
「お父さん」
「うん」
「かったね」
「うん、かった」
それきりは言葉を交わさず、しい町の方へと歩きした。
桜は数のない男だった。
定退職は町れの古い寺で、庭の入れを伝う静かな々を過ごしていた。
寺の依頼で松の枝を払い、剪定鋏の音を朝の静寂に響かせる、質素な仕事だ。
妻の静は先が器用で、若い頃から内職で計を支えてきた。
今でも所から仕て直しの依頼を受け、コツコツと針をかしている。
には子供がなく、ずっと夫婦きりで暮らしてきた。
状況が変わるきっかけは、末に訪れた。
町れの国沿いに、ほどにした型パチンコがある。
普段ギャンブルとは無縁の桜だったが、そのはたまたま帰りにち寄った。
元のさな聞の片隅に、たったの記事が掲載されていた。
『町・桜氏、当たり百万円』
それだけのささやかな幸運だった。