"虎姑と賢い嫁" 第2話
そう言って、袖をたすき掛けにし、際よく米を研ぎ始めました。加減を調えるつきは静かでく、器がぶつかる音ひとつてません。婆やはわずして、のそばで息を呑みました。
やがてお兼ばあさんの部から、乾いた咳払いが聞こえました。
おは洗顔の湯を真鍮の器に入れ、両で慎に運びました。部ので膝をつき、静かに声をかけます。
「お義母様、お湯をお持ちいたしました」
から返事とも唸り声ともつかぬ声が聞こえ、おは障子をけました。
お兼ばあさんは布団のに座り、嫁が入ってくるのを待ち構えていました。おが器を差しすと、お兼ばあさんは指先で湯に触れた途端、のような声をげました。
「ええい、これが湯か。氷ではないか。姑を凍えさせるつもりか」
実のところ、湯はちょうど良い加減でした。けれど、これは先を取って嫁を怯えさせるための、いつもの難癖でございました。
普通の嫁ならばすぐに座し、涙声で謝るところです。けれど、おは慌てませんでした。両をつき、落ち着いた声で答えます。
「お義母様、申し訳ございません。の空気が誠にたく、こちらへ参ります途でしめてしまったようでございます。私の誠がりず、寒気に勝てませんでした。次は胸に抱いてでも、湯の温もりをお守りしてお持ちいたします」
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その答えは丁寧で、しかも筋が通っておりました。お兼ばあさんは瞬、言葉に詰まりました。るには嫁の態度があまりに落ち着いており、難癖をつけるには返しが見事だったからです。
朝餉のになると、お兼ばあさんは膳のに座り、箸を持つから難癖を並べ始めました。
「汁の椀がし曲がっている。この漬物はが悪い。飯が固すぎる」
おはそのたびに素くをかし、器を直し、膳をえ、茶を注ぎ直しました。けれど表には苛ちも悔しさもありません。まるでわがままな子どもを静かにあやす母親のような落ち着きがありました。
それがまた、お兼ばあさんの自尊を傷つけました。
とうとう彼女は噌汁をむと、わざと椀を置き、声を荒げました。
「この汁は塩汁か。がうために作ったのか。私の舌を馬鹿にするにもほどがある。田舎では畜にすような汁をにすのか」
汁のは、実際には程よい塩梅で変美しゅうございました。けれど、お兼ばあさんは嫁の気を挫くために無理を通しているのでございます。
部ので聞いていた使用たちは、今度こそ変だと息を呑みました。
おは静かに膳へ目を落とし、それから姑の目をまっすぐに見つめました。
「お義母様、おにわず申し訳ございません。
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古来より、塩は邪気を払い、を清めると申します。私が、お義母様のご健康を案じるあまり、悪い気がづかぬよう々をくしてしまったようでございます。次はお体に障りなきよう、を込めてをえます」
その言葉は、汁が塩辛いという難癖を受けながらも、それが姑のを案じたゆえだと返す、見事なものでございました。
お兼ばあさんは呆れたように嫁を睨みましたが、「健康をってのこと」と言われては、っぴらにる名分がなくなってしまいました。
「ふん。ばかりよく回る舌だこと」
そう言い捨てると、再び箸を取るしかありませんでした。
事が終わり、膳がげられた、お兼ばあさんはひとり部に残って考え込みました。
あれはただ者ではない。
見は綿のように柔らかそうだが、にはい岩が入っているようだ。
でも、あの岩を砕いてやる。
その頃、台所に戻ったおは、ようやくさく息を吐きました。けれど、その目はしも曇っておりませんでした。
婆やが配そうに駆け寄ります。
「若奥様、丈夫でございますか」
おは笑って答えました。
「丈夫です。お義母様のお声があれほどきいということは、お体がとても丈夫だということです。声をす力もない方が、よほど配ではありませんか」
婆やはその向きな言葉に、ただ舌を巻くばかりでした。
昼になると、お兼ばあさんはおを庭へ呼びました。