"27枚目の真実" 第1話
「あなた、お洗いにってくるわ」
それが、妻のが健に残した最の言葉だった。
1999922の朝、全国の速はの連休をに、帰省する々のでごった返していた。名速は激しい渋滞に包まれ、は亀のようにのろのろとんでいた。
運転席でハンドルを握る健は35歳だった。の経営は楽ではなく、従業員の料や取引先からの催促に追われる毎だった。それでも、この連休だけは仕事のことを忘れ、名古にいる両親のもとで族と過ごすつもりだった。
助席に座っていたは33歳だった。部座席の鞄から黄い使い捨てカメラを取りし、子どものように目を輝かせていた。
「あなた、これ見て」
がにしていたカメラには、フジフィルムの文字がはっきり刻まれていた。
「お母さんと今度こそ緒に写真を撮らなくちゃ。このも撮ろうとして忘れちゃったもの」
健はバックミラー越しに妻を見た。の目元にはさな皺ができ始めていたが、笑ったのるさは婚の頃としも変わらなかった。
「君はいつも写真を撮るって言うだけで、結局撮らないじゃないか」
「今度は撮るわよ、本当に」
はいたずらっぽくカメラを健に向けた。シャッターを押す真似をすると、健は苦笑しながら首を振った。
「運転のを撮ったら危ないだろう」
広告
「丈夫よ。どうせ今、は全然いていないんだから」
実際、はほとんど止していた。窓のではコスモスがに揺れ、の差しを浴びてっていた。
「気はいいね」
が窓をしけると、涼しいが内に流れ込んだ。しかし、空には所々が浮かび、どこかたい気配も漂っていた。
「がりそうだな」
健が空を見ながら呟くと、は軽く笑った。
「まさか。気予報ではれだって言ってたわよ」
その瞬、の表がわずかに暗くなった。健はそれを見逃さなかった。最のは、々ぼんやりとくを見つめることがあった。疲れているようにも見えた。
「君、最とても疲れているように見えるよ」
健が慎に言うと、は瞬笑ってから顔を窓のへ向けた。
「丈夫よ。ただし疲れているだけ」
「どこか具でも悪いのかい?」
「ううん。本当に丈夫」
その声はいつもよりしく、何かを隠そうとしているように聞こえた。健はそれ以問い詰めなかった。妻が話したくないなら、無理に聞く必はないとったからだった。
しばらくして、がぽつりと呟いた。
「もうすぐ全部終わるから」
健はわず妻の横顔を見た。
「何が?」
は慌ててを振った。
「あ、何でもないの。ただの独り言よ」
その言葉は内に奇妙な余韻を残した。何が終わるのか。
広告
聞き返したかったが、なぜか健はを閉ざした。
やがて、柄サービスエリアの案内板が見えた。
「柄サービスエリアまで2kmか。そこでし休もう」
「ええ。私もコーヒーを買いたいわ」
サービスエリアに入ると、駐は連休ので満にかった。健は何とか隅の方にを止めた。建物のには族連れや帰省客があふれ、子どもたちがり回っていた。
「俺はトイレにってくるよ。君は?」
「私もトイレにくわ。それからコーヒーを買ってくる」
はカメラをに取った。
健はし首をかしげた。
「トイレにカメラなんて、どうして持っていくんだい?」
「あ、なんとなく。サービスエリアの景でも撮ろうかとって」
は笑ったが、その笑顔はどこか自然だった。
2はをり、建物へ向かって歩いた。青いシャツにジーンズ姿のは、黄いカメラを首からげていた。ごく普通の連休の景だった。
建物の入に着くと、はトイレの方へ向かった。
「私、先にってくるわね」
「分かった。で売ので会おう」
健がを振ると、はさく頷き、混みのへ消えていった。
それが、健が見た妻の最の姿だった。
トイレを済ませた健は、売ののベンチに座ってを待っていた。腕計を見ると、午2を過ぎていた。名古まではまだ距があり、なくともあと3はかかる。
10分ほど経っても、は戻ってこなかった。健は最初、女性用トイレが混んでいるのだろうとった。