"甘い部屋の72時間" 第3話
「はい。僕も何もりませんでした」
「同じにいて、どうしてあんなになるまで気づかなかったの」
「最、し体調が悪いとは言っていました。でも、こんなに刻だとは……」
「じゃあ、なぜ病院に連れてかなかったの」
「本が丈夫だと言っていましたから」
啓介の声はく、落ち着いていました。その落ち着きが、かえってえみ子を苛たせました。
親族が集まった席で、啓介はある説を始めました。
「では、ずっとおを焚いていました」
えみ子は顔をげました。
「お?」
「ええ。咲も元々りが好きでしたし、いつもアロマキャンドルかディフューザーをつけていました」
えみ子は眉をひそめました。
おかしい。
咲はりが好きなではありませんでした。むしろ、いりは苦でした。犬を飼っていたこともあり、りのいものは避けるようにしていました。
「咲がりを好きだったって?」
「最は毎使っていましたよ」
「そんなはずないわ。あの子は犬を飼っていたじゃない。い匂いがするものは嫌っていたはずよ」
啓介はし黙りました。
「って、変わるじゃないですか」
その言に、えみ子は返す言葉を失いました。
しかし、疑は消えませんでした。
葬儀に参列したのに、伊藤かよ子がいました。咲の学代の同級で、の親友です。
かよ子は、そっとえみ子のもとへやって来ました。
広告
「お母さん、しお話したいことがあります」
えみ子は彼女を空いている部へ連れてきました。
「どうしたの、かよ子ちゃん」
かよ子は慎に言葉を選びました。
「咲がりを好きだったっていう話、変だといませんか」
えみ子はこくりと頷きました。
「私もそうっていたの」
「、咲のに遊びにったんです。その、アロマキャンドルはいくつかありました。でも、あれは飾りでした。をつけていなかったし、咲が言っていました。犬たちがいるから、りがいものは使わないようにしているって」
えみ子は唇を噛みしめました。
「やっぱり……」
かよ子はさらに続けました。
「それに、今に入ってから咲の連絡がすごく減ったんです。8頃からは、ほとんど返事もなくて」
「なんですって」
「最初は忙しいのかなってっていました。でも今うと、何かがおかしかった」
かよ子の目が揺れました。
「私、もっと気にしてあげればよかった」
えみ子は、かよ子のを握りました。
「あなたのせいじゃないわ。母親の私だって気づけなかったんだから」
2はしばらく無言で座っていました。
咲は、いつから世界から切りされていたのか。
その問いが、えみ子の胸を締めつけていました。
葬儀が終わった、えみ子は娘の携帯話の記録を復元しました。
通信会社に正式に依頼して取り寄せたメッセージ履歴です。
広告
夫と2、テーブルに並べた資料を1つずつ確認していきました。
20226までは、ごく普通のやり取りでした。
「今の晩ご飯、何にする?」
「犬のおやつがなくなったから買ってくるね」
「荒川の散歩、気がいいにこうよ」
夫婦の常の言葉でした。
しかし、7の頃から、その雰囲気は変わっていきました。
咲からのメッセージが、目に見えて減っていたのです。
そして8半ば以、会話のパターンが完全に変わりました。
啓介から送られてくるのは、スーパーの陳列棚を映した写真ばかりでした。
「これ買う?」
「このブランドでいい?」
写真のには、必ず通話履歴が続いていました。
えみ子は画面を見つめながら呟きました。
「物を1つ選ぶのも、いちいち話で聞いていたっていうの」
夫がい声で言いました。
「咲が自分で買いにけなかったんだろう」
「どうして。どうしてけなかったのよ」
さらに記録を追うと、奇妙な点はにもありました。
写真に映っている品物は、かつて咲がよく買っていたものとほとんど同じでした。シャンプー、洗剤、ドッグフード。ブランドまで同じです。
つまり、咲の好みは分かっていた。
それでも、買うのも、支払うのも、受け取るのも、すべて啓介の役割でした。
咲の選択は、スマートフォンの画面のにだけしていました。
「何かがおかしい」
えみ子は携帯を置きました。
夫も頷きました。
「咲はにられなかったんじゃないか」