"三十年目の指輪" 第6話
ち止まったことのない所。
そんなものが、目に入るようになりました。
さなカフェのでが止まりました。
入ったことはありませんでした。
を見ると、1で座っているが何かいました。その景が、議と落ち着いて見えました。
私はゆっくりとドアをけました。
席に座って、コーヒーを注文しました。
しばらくして、目のにカップが置かれました。湯気がっていました。
そのりをかいだ、ふといました。
ああ、自分で選んだんだ。
さなことでした。
でも、今までの私にはあまりなかったことでした。
誰かのためではなく、自分のために選ぶ。
それがこんなにも静かで、こんなにもはっきりしていることに、し驚きました。
それからしばらくして、しずつにるが増えました。
特別な予定があるわけではありません。ただ、のにいるより、の空気の方がしだけ楽にじられるようになったのです。
あのカフェにも、何度かきました。
いつも同じ席に座って、同じコーヒーを頼みました。のとも、しずつ顔をわせるようになりました。
言葉はほとんど交わさないけれど、それでも誰かがいる所にいるというだけで、することがありました。
ある、そのカフェで久しぶりに名を呼ばれました。
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「もしかして……」
顔をげると、見覚えのある女性がっていました。
最初はすぐにはいせませんでした。けれど、そのが笑った、ようやく気づきました。
昔、くにんでいたでした。
子どもがさい頃、何度か顔をわせていたです。
お互いに、しだけをねていました。
「久しぶりですね」
そう言われて、私はうなずきました。
しだけ気まずい沈黙がありました。何を話せばいいのか、分からなかったのです。
そのは、私の向かいに座りました。
「最、よく見かけます」
優しい声でした。
私は「そうなんですね」とだけ答えました。
それ以、何も言いませんでした。
でもそのは、無理に話を広げることもなく、ただ同じを過ごしました。その静けさが、どこかよくじられました。
しばらくして、そのがぽつりと言いました。
「旦さん、元気ですか?」
その言で、がしだけ止まった気がしました。
どう答えればいいのか、瞬分かりませんでした。
でも、考えるより先に言葉がました。
「別れました」
自分でも驚くほど、自然な声でした。
そのはしだけ目を見き、それから静かにうなずきました。
「そうなんですね」
それ以、何も聞きませんでした。
理由も、いつからかも、聞こうとしませんでした。
そのことが、とてもありがたくじました。
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話さなくてもいいことが、この世のにはある。
そうえたのです。
帰り、しだけ空を見げました。
青い空でした。
にも見ていたはずなのに、どこかしくじました。
そのの夜、に帰ってから、ふといしました。
夫がていったのこと。
玄関の音。
あの軽い「じゃあ」という言葉。
あの、私は何も言いませんでした。
言えなかったのか、言わなかったのか。
今でも、はっきりとは分かりません。
でも、もしあの何か言っていたら。
引き止めていたら。
結果は変わっていたのか。
しだけ考えました。
そして、すぐにやめました。
もう、戻るための問いではないと分かっていたからです。
その代わりに、別のことを考えました。
私はあのと30緒にいた。
そのは、なくなったわけではない。
ただ、形が変わっただけ。
そううと、しだけが落ち着きました。
気を消すに、カレンダーを見ました。
あのから、もうしで1が経とうとしていました。
同じがまたやってくる。
そのことに、ほどのさはじませんでした。
ただ、しだけ気になりました。
来のそのを、私はどう過ごすのだろう。
考えても答えはませんでした。
でも、その答えを自分で決められるということだけは、はっきりしていました。
それだけで分でした。
1の朝でした。
私はいつもよりしだけゆっくり目を覚ましました。
カーテンの隙から、あのと同じように柔らかいが入っていました。しばらく井を見たまま、何も考えずにいました。