"三十年目の指輪" 第3話
台所にって、お湯を沸かしました。
けれど、しばらくけませんでした。
今は何をすればいいのか。
朝ご飯は作るのか。
いつも通りでいいのか。
そんなことを1つずつ考えないと、体がかなかったのです。
結局、私はいつもと同じように朝ご飯を作りました。
それしかできませんでした。
夫は起きてきて、何もなかったように席に座りました。でも、空気だけが違っていました。言葉がどこにもありませんでした。
「会社、くから」
それだけ言って、夫はちがりました。
私はうなずくだけでした。
玄関まで見送ると、夫は1度だけ振り返りました。何か言いたそうでした。でも結局、何も言わずにドアをけました。
その背を見ながら、私はいました。
あのは、いつからああやって言葉をみ込むようになったのだろう。
昔は、もっと話すでした。
仕事のことも、くだらないことも、何でも話していました。
それを私は、ちゃんと聞いていたのか。
いそうとしても、はっきりとはてきませんでした。
昼過ぎ、器を片付けながら、ふと引きしをけました。そこには古いアルバムが入っていました。いつしまったのか、覚えていませんでした。
表をくと、最初にあったのは結婚式の写真でした。
いドレス。
しだけぎこちない笑顔の私。
その隣には、若い夫がっていました。
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今よりもずっと優しそうな顔でした。
次のページには、子どもがまれた頃の写真がありました。さな。泣いている顔。その横で、夫が笑っていました。
その頃の毎は、あっというでした。
寝るもなく、自分のことを考える余裕もなく、それでもそれが当たりだとっていました。
族のためにくことが、私の役目だとずっとっていたのです。
ページをめくるが、ある写真ので止まりました。
子どもが学にがった頃の写真でした。
その、夫が何か話そうとしていたことを、ぼんやりいしました。
「今度さ、ちょっと……」
そう言いかけた夫に、私は台所から声をかけたのです。
「ごめん、でいい?」
そのは、ただ忙しかっただけでした。
ご飯の準備。
子どもの支度。
やることがのようにありました。
夫は「うん」とだけ言って、それ以何も言いませんでした。
あの、何を話そうとしていたのか。
今になってもいせませんでした。
でも、そのからしずつ変わっていった気がします。
話すことが減って、帰りも遅くなって、休も別々に過ごすようになって。
それを私は、どう受け止めていたのか。
分、何も受け止めていなかったのだといます。
見えていなかったのか。
見ないようにしていたのか。
それもよく分かりません。
ただ1つはっきりしているのは、昨の夜、夫はもう決めていたということでした。
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ずっとから、決めていたのかもしれません。
夕方になり、部のがし暗くなりました。
気をつけながら、私はいました。
30。
そのので、私たちはどこで違ってしまったのだろう。
アルバムのの2は、確かに同じ方を見ていました。けれど気づいたには、別々の方向を向いていた。そのことに、昨まで気づかなかったのは、私の方だったのかもしれません。
そのの夜、夫はいつもよりく帰ってきました。
ドアの音ですぐに分かりました。まだ7でした。こんなに帰ってくるのは、久しぶりでした。
私は台所にったまま、を止めました。
何を作ればいいのか分からなくなっていたのです。
結局、蔵庫にあるもので簡単なものだけ用しました。特別なことはもうしませんでした。テーブルに並べても、昨のように何かを期待する気持ちはありませんでした。
夫は席につくと、しばらく何もせずに料理を見ていました。そして、さく息を吐いてから箸を取りました。
「昨のことなんだけど」
そう言って、また言葉が止まりました。
「うん」
私はそれだけ返しました。
それ以聞こうとはしませんでした。聞いたところで、答えはもう変わらないと分かっていたからです。
しばらくして、夫はぽつりと言いました。
「から考えてた」
その言い方は、とても静かで、そしてくじられました。