"75歳の老婆をと20キロのヒラメ" 第9話
くなった息子らしき若い男の写真。
その写真を胸に抱くようにして見つめていた姿を、賢治は忘れられなかった。
やがて支払いのになった。
浅見さんは古びた茶の布財布を取りし、真しい1万円札を数えた。今も札は折り目ひとつなく、の端がぴんと張っていた。
「15万円です」
浅見さんは札を差しした。
賢治は受け取った。
「確かに」
言葉にしながらも、ので何かが沈んでいった。
老婆がをた、賢治はの奥へ戻った。健太が配そうに見ている。
「社……」
「今、警察へく」
賢治はい声で言った。
健太は瞬驚いたように目をいたが、すぐに真剣な顔で頷いた。
「その方がいいといます」
夕方、賢治はの組、森田精肉の拓哉、果物の渡辺さん、惣菜の林さんと緒に関署へ向かった。
警察署の入をくぐる、賢治のは自然とくなった。自分たちは善で来たつもりだった。だが、もし浅見さんが本当に何も悪いことをしていなかったら、これは彼女を傷つける為になるかもしれない。
活全課の原という刑事が対応した。
40代半ばほどの落ち着いた男で、賢治たちの話を遮らず、ひとつひとつメモを取りながら聞いていた。
「75歳くらいの女性が、毎量の材を現で買っている。支払いはすべて札。
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以は古回収で暮らしていた。現は業務用蔵庫のある古いにんでいる。材のき先は、ということですね」
原刑事が確認するように言った。
賢治は頷いた。
「はい。あの……私たちは浅見さんを責めたいわけじゃないんです。ただ、もし誰かに利用されているならとうと、このまま売り続けるのが怖くなって」
拓哉もをいた。
「うちでも毎、肉を90キロ買っていきます。現で8万円です。普通じゃありません」
渡辺さんが続けた。
「果物も毎3万円分です。領収もいらないと言います」
林さんは胸のでを握った。
「子どもたちがべる、とだけ言っていました。でも浅見さんは暮らしのはずなんです」
原刑事はペンを止め、顔をげた。
「子どもたち、ですか」
「はい」
賢治が答えた。
「その言葉だけが、ずっと引っかかっています」
原刑事はしばらく考え込んだ。
「分かりました。現点で犯罪と断定することはできません。ただ、齢者がを持ち歩き、周囲に説しないまま量購入を続けているという状況は、保護の観点からも確認が必です。、私たちも様子を見ます」
賢治はくをげた。
警察署をる頃には、すっかりが暮れていた。
へ戻るで、誰もをかなかった。
警察に相談したことで、ししたはずだった。
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それなのに賢治の胸には、別のさが残っていた。
浅見さんはも来る。
そして、何かがらかになる。
その予だけが、たい夜ので賢治の背にまとわりついていた。
翌、港産の空気は朝から張りつめていた。
賢治はいつも通り魚を並べ、包丁を研ぎ、槽の状態を確認した。だが、どの作にも落ち着きがなかった。計を見る回数が自然と増えていく。
健太も同じだった。
「社、今、刑事さん本当に来るんですよね」
「ああ。のくで見守ると言っていた」
「浅見さん、気づきますかね」
「分からん」
賢治はく答えた。
午140分頃、原刑事と若い女性警察官がに現れた。私だった。観客に紛れるように歩き、港産の斜め向かいにある茶のでち止まった。
組もしれた所にいた。拓哉、渡辺さん、林さんも、それぞれ自分のにいながら、気にしているのが分かった。
午2。
引き戸がいた。
浅見さんだった。
いつものように腰を曲げ、リアカーを先に止めてからへ入ってきた。今はがく、髪がし乱れていた。顔はさらに悪く、目ののくまも濃くなっていた。
「今も、ヒラメ20キロをください」
声はかすれていた。
賢治は胸が痛んだ。
「浅見さん、今はしお休みになった方がいいんじゃありませんか」
老婆はし驚いたように顔をげた。
これまで賢治は「おばあさん」と呼んでいた。初めて名で呼んだのだ。
浅見さんはほんの瞬だけ表を揺らしたが、すぐにいつもの無表に戻った。