"75歳の老婆をと20キロのヒラメ" 第8話
蔵ケースのかりを落とし、まな板を洗い、包丁を拭き終えても、がかなかった。
のには魚の匂いがかすかに残っていた。
港から吹くたいが、引き戸の隙を鳴らしている。
健太は帰り支度をしながら、配そうに賢治を見た。
「社、もおばあさん来ますよね」
「ああ。たぶんな」
「警察に言うんですか」
賢治はすぐには答えなかった。
浅見さんの姿がに浮かんだ。
穴のいたスニーカー。
に濡れたジャンパー。
震えるで数えた札。
そして、ノートの横に置かれた若い男の写真。
もし彼女が犯罪に巻き込まれているなら、く助けなければならない。
もし彼女が自分ので何かをしているのなら、その理由をらないまま警察を呼ぶことは、彼女をく傷つけるかもしれない。
だが、もう額はきすぎた。
全体でいたは、すでに数百万円を超えている。
賢治は子に座り、両で顔を覆った。
30、こので商売をしてきた。
客の事に入りしないことも、商売の恵だった。
けれど、として見過ごしてはいけない瞬もある。
今がそのなのかもしれない。
に帰ると、妻が待っていた。
賢治はその見たことをすべて話した。
妻は最まで黙って聞いていた。
「あなた」
話し終えると、妻は静かに言った。
「もし自分の親が、そんなふうに毎を使っていたら、誰かに気づいてほしいとうわ」
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賢治は顔をげた。
「責めるためじゃなく、助けるためにね」
その言葉に、賢治の胸ので何かが定まった。
翌朝、賢治はの組に話をかけた。
「今、浅見さんが来たら、もう度様子を見ます。その、警察に相談しましょう」
組はく答えた。
「分かった。俺もち会う」
午、賢治はいつものように仕込みをした。
けれど、のきはいつもよりかった。
午2がづく。
計の針がむたびに、内の空気が張りつめていった。
健太も、拓哉も、組も、それぞれのくにいた。
そして、午2。
引き戸が、いつものようにいた。
浅見さんがっていた。
今も古いジャンパーを着て、破れたスニーカーを履いていた。
けれど、その目は昨よりもさらに疲れていた。
「今も、ヒラメ20キロをください」
賢治は老婆を見つめた。
このは何を抱えているのか。
毎30万円もの材を買い、空の蔵庫に詰め、き息子の写真を見つめているこのは、いったい何をしているのか。
賢治はまだらなかった。
この、警察がき、誰も像できなかった真実がらかになることを。
そしてその真実をった、自分が涙を流すことになるなど、このの賢治には像もできなかった。
ただ、目のの老婆を放っておくことは、もうできなかった。
賢治は静かに頷き、包丁をに取った。
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「分かりました。今も用します」
包丁がまな板に触れる音が、内に静かに響いた。
午2の港産に、いつものように浅見さんがっていた。
賢治は包丁を握りながら、彼女の姿を正面から見つめていた。古びた黒いジャンパー、つま先の破れたスニーカー、細く震える指。昨までと何も変わらないはずなのに、そのはひどくい所から来たのように見えた。
「今も、ヒラメ20キロをください」
浅見さんはさな声で言った。
賢治はすぐに頷いた。
「分かりました。今も用します」
そう答えながらも、胸の奥はかった。
このを疑うことが正しいのか。
このを見過ごすことが正しいのか。
答えはていなかった。
けれど、浅見さんがで使った額は、すでに普通では済まない額になっていた。ヒラメ、肉、惣菜、果物。毎30万円。15で450万円い額。つい数かまで古を拾い、1かに3万円ほどを稼いでいたという老婆が、どうして突然そんなを使えるようになったのか。
それを考えるたび、賢治の元の包丁はわずかにくなった。
浅見さんはいつもの子に座った。両を膝のでね、背筋だけは議なほどまっすぐにしていた。線は正面に向けられているが、のの何かを見ているわけではなかった。
賢治は魚を捌きながら、ちらりと彼女を見た。
ポケットのに、きっとあの写真がある。