"75歳の老婆をと20キロのヒラメ" 第3話
賢治は次第に、老婆が来るになると、自然に計を見るようになっていた。
6目は、朝からだった。
の通りも通りがなく、先ののれんは湿ったに揺れていた。
「今は来ないだろうな」
賢治はぽつりと言った。
健太も頷いた。
「あんなリアカーで、このじゃ無理ですよ」
けれど午2。
引き戸がいた。
にずぶ濡れになった老婆が、リアカーを引いてっていた。
傘もささず、ジャンパーからはが滴っている。髪は顔に張りつき、スニーカーの穴からは濡れた靴が見えていた。
「おばあさん、こんな気に」
賢治は慌ててタオルを差しした。
老婆はそれを受け取り、顔だけを雑に拭いた。
「丈夫です。今も同じものをください」
「し休んでいってください。邪を引きますよ」
「いいえ。くかないと」
その声には、いつもと違う切迫があった。
賢治は刺を用しながら、老婆の様子を見ていた。
このに限って、老婆は何度も計を見ていた。
まるで、何かのに遅れることを恐れているようだった。
賢治の疑いは、もうただの好奇ではなくなっていた。
何かがある。
この老婆の背には、きっと何かがある。
そう確信し始めていた。
7目。
賢治は決していた。
老婆が帰ったを、こっそりつけてみよう。
商売としては褒められたことではない。
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けれど、このまま何もらずに売り続ける方が、もっと危険にえた。
午2、老婆はやはり現れた。
このはいつもより疲れて見えた。目のには濃いくまができ、リアカーを引くもいつも以に震えていた。
それでも注文は変わらなかった。
「ヒラメ20キロと、鍋用のあらをください」
賢治はいつも通り品物を用した。
老婆が支払いを終え、リアカーを引いてっていくと、賢治は健太に声をかけた。
「してくる。を頼む」
健太はすぐに事を察した顔をした。
「社、気をつけてくださいよ」
賢治は頷き、しを置いてからをた。
老婆の歩みは遅い。
い発泡スチロールの箱を積んだリアカーは、ぎしぎしと音をてながら通りをんでいた。
賢治は距を取り、通に紛れるようにを追った。
老婆はを抜け、通りへた。
そこまでは自然だった。
けれど、に入ったところで、老婆は急にリアカーを止めた。
そして、ろを振り返った。
賢治は慌てて柱のにを隠した。
臓がどくどくと鳴った。
老婆はしばらくろを見ていた。
まるで誰かにつけられていないかを確かめるようだった。
やがて再びリアカーを引き始める。
賢治はさらに慎になった。
なぜ、あれほど警戒するのか。
本当に何かを隠しているのか。
老婆は入り組んだを回り、坂のの古い宅へ向かった。
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坂に入ると、リアカーはさらにそうに見えた。老婆は体をに倒し、細い腕で取っを握りしめている。
途で何度もを止め、息をえた。
それでも、誰かに頼ることなく、ひとりで引き続けていた。
ついに老婆は、古いバラックのようなので止まった。
と呼ぶのもためらわれるような建物だった。
トタン根は錆びて茶く変し、板壁にはところどころ穴がいていた。窓枠は傾き、隙からたいが入り込みそうだった。
けれど、そのさな庭に、奇妙なものが置かれていた。
きな業務用蔵庫が2台。
とはまるで釣りいな、ぴかぴかしたステンレスの蔵庫だった。
賢治は塀のから息を殺して見守った。
老婆はリアカーから発泡スチロールの箱を1つずつろし、蔵庫をけた。
は空だった。
に買ったはずの量の刺も、肉も、惣菜も、果物もない。
老婆は今買ってきた箱を、丁寧に蔵庫のへ並べていった。
賢治は目を疑った。
空なのか。
昨の分は、どこへ消えたのか。
毎30万円い材を買って、それが毎なくなるというのか。
誰がべるのか。
しかも、あんな崩れかけたにむ老婆が、なぜ業務用蔵庫を2台も持っているのか。
蔵庫だけが異様にしく、価に見えた。
老婆はすべての箱を入れ終えると、蔵庫の扉を閉め、のへ入っていった。
賢治はもっとづいて確かめたい衝に駆られた。