"皿洗いと呼ばれた名料理人" 第6話
どんなに派な経歴があっても、のこもっていない料理ではがありません」
「のこもった料理……」
マリーはその言葉を繰り返した。
「はい。料理は技術だけではなく、作りの気持ちが1番切なのです」
それからしばらくして、ハサン閣が再びホテルを訪れた。
「今度は、季節の変化をじられる料理をお願いします」
冴子はその依頼にを込めて応えた。
の訪れをじさせるの子の煮物。
桜鯛の刺。
桜餅を添えた抹茶のデザート。
料理をわった閣は、満そうに目を細めた。
「料理を通じて、本の季節をじることができます」
その言葉は、厨にいたすべてのスタッフのにく響いた。
その夜、営業が終わった、ボナールが冴子に声をかけた。
「冴子、君に礼を言いたい」
「お礼ですか」
「君が来てから、この厨が変わった。みんなが料理に対して、より真摯に向きうようになった。君の姿勢が、々全員に良い響を与えてくれたんだ」
冴子はくをげた。
「私の方こそ、皆さんからくのことを学ばせていただきました」
それから半が経った。
冴子のは、パリの美界でも話題になっていた。フランス料理とを融させたしいメニューもまれ、若いシェフたちは彼女から学んだ技術を自分の料理にかしていた。
マリーは今では、冴子の1番弟子のようなになっていた。
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「冴子さんの汁の技術を使って、しいスープを作ってみました」
彼女が嬉しそうに報告すると、冴子は温かくうなずいた。
「素らしい夫ですね。きっとお客様にんでいただけます」
ある夕方、若いシェフの1が冴子に尋ねた。
「どうしてそんなに穏やかでいられるんですか。最初の頃、あんなに馬鹿にされてもらなかったじゃないですか」
冴子は汁のをめ、し考えてから答えた。
「ることは簡単です。でも、それでは何も変わりません。本当に切なのは、自分の信を貫き通すことです」
「信を貫く……」
「私は料理を通じて、に幸せを届けたいとっています。その気持ちさえあれば、どんな所でも料理でいられます」
その夜、営業が終わった、冴子は1で厨に残った。
切にしている包丁を取りし、いつものように入れを始める。刃を研ぐ静かな音が、厨に響いた。
皿洗いと呼ばれた々。
嘲笑された。
それでも、彼女は料理としての誇りを失わなかった。
そして今、その静かな誇りはくののを変えていた。
翌朝、冴子がいつものように厨へ入ると、スタッフたちが笑顔で迎えた。
「おはようございます、冴子さん」
「今もよろしくお願いします」
冴子は1ずつにをげた。
この厨には、もう以のような差別や偏見はなかった。
あるのは、料理に対する真摯な気持ちと、お互いを尊するだけだった。
真の実力とは、声に誇るものではない。
丁寧に取られた汁のように、をかけていわいをみし、静かにのへ届いていくものなのだ。
冴子は今も包丁を握る。
そしてを込めて、誰かの切ないになる料理を作り続けている。
― 完 ―