"皿洗いと呼ばれた名料理人" 第4話
続いて魚の煮付けをべた。
はほろりと崩れ、汁のが魚の旨と体になっていた。
ボナールはしばらく言葉を失った。
「信じられない……」
それは侮辱ではなかった。
料理としての驚きだった。
スタッフたちも次々に見をし、誰もが目を見いた。
「こんなに美しい料理、初めてべた」
「どうして今まで皿洗いなんてしていたの?」
冴子は静かにをげた。
「私は以、本での料理をしておりました」
ボナールが問いかけた。
「どこで働いていたんだ」
冴子はしだけを置いて答えた。
「宮内庁で料理をしておりました」
厨に静寂が落ちた。
宮内庁。
本でも最準の料理技術と品格が求められる所だった。
ボナールの顔から、完全に余裕が消えた。
「なぜ、それをく言わなかった」
冴子は穏やかに答えた。
「料理は技術だけではありません。を込めて作ることが1番切です。私の料理をすかどうかは、肩きではなく、で判断していただきたかったのです」
その言葉に、誰もすぐには返せなかった。
やがてボナールがく息を吐いた。
「冴子、ハサン閣の料理を君に任せる」
冴子はまっすぐにをげた。
「ありがとうございます。を込めて作らせていただきます」
事会まで、あと2。
本当の勝負は、そこから始まった。
事会当の朝、厨は今までにない緊張に包まれていた。
広告
各国の文化臣や交官が集まるな夜だった。1つの失敗も許されない。フランス料理のコースも、冴子のも、最の仕込みに入っていた。
「今は頼むぞ、冴子」
ボナールが彼女のそばにち、い声で言った。
その態度は、試作のかららかに変わっていた。彼はもう冴子を雑用係として見ていなかった。1の料理として、敬を持って接していた。
「はい。必ず美しい料理をお作りいたします」
冴子の返答には、静かな自信があった。
午6、事会が始まった。
宴会にはたちが集まり、ウェルカムドリンクが振るわれた。厨では最の仕げがめられている。
「ハサン閣がお見えになりました」
ホールスタッフのらせを受け、冴子は静かに呼吸した。
今のは、試作よりさらに洗練されていた。
季節の魚の煮付け。
品な汁の茶碗蒸し。
を込めて炊いたいご飯のさなおにぎり。
そして、美しく盛り付けた季節の野菜の鉢。
「完成です」
冴子の声が厨に響いた。
皿のの料理は、派ではなかった。だが、そこには本の季と、料理のが確かに込められていた。
料理はフランス料理のコースのに、特別な1品として運ばれた。
宴会で料理をにしたハサン閣は、60代半ばの威厳ある男性だった。皿を見た瞬、彼の表がわずかに変わった。
広告
「これは本格なですね」
最初に茶碗蒸しをに運ぶと、閣の目が穏やかになった。
「素らしい。これほど品な汁のは久しぶりです」
続いて魚の煮付けをわった閣は、しばらく目を閉じた。
「この料理を作った方はどなたですか」
支配はすぐに答えた。
「当厨のスタッフ、冴子でございます」
「ぜひお会いしたい」
その望を受け、冴子は宴会へ呼ばれた。
厨の扉をる、彼女は度だけをわせるように指をねた。そして、静かに宴会へ入った。
冴子の姿を見た瞬、ハサン閣の目に驚きのが宿った。
「あなたが作ってくださったのですね」
閣はちがり、丁寧にをげた。
「はい。おにいましたでしょうか」
冴子もく礼を返した。
「素らしい料理でした。急なリクエストに応えていただき、謝します」
その、フランスの交担当者が尋ねた。
「閣はなぜ今回、をリクエストされたのですか」
ハサン閣は懐かしそうに微笑んだ。
「10ほど、本を訪れた、とても印象いをいただいたことがあります。旅で体調を崩していた私を、その料理が救ってくれたのです」
冴子の胸が静かに震えた。
「優しく、それでいて力いでした。今の料理をべて、そののことをいしました」
閣は冴子を見た。
「料理には、作りのが宿ります。
今の料理からも、同じ温かいをじました」