"中卒の兄、結婚式で覚醒す" 第26話
混乱と喧騒に包まれていたホテルのエントランスを抜け、の空気に触れた敬はネクタイをし緩めながらきくゆっくりと息を吐きした。
見げれば京の夜空にはは見えない。代わりに周囲のビル群が放つたいネオンのが、静かな夜のをく照らししていた。
都会のの音がくでくぐもって聞こえる、たい夜がほてった敬の体を優しく撫でていく。
つい数分まで病院の院による暴言や国税局の突入で嵐のように荒れ狂っていた会の空気が、まるでい昔のだったかのように、の世界は静かで穏やかだった。
敬はホテルの敷の隅にひっそりと設置されている自販売へと歩み寄った。
ポケットから銭を取りし、見慣れた銘柄の缶コーヒーのボタンをつ押す。
ガコンガコンとい音をてて落ちてきたつの缶を、両にしっかりと握りしめた。
「兄ちゃん」
背から声をかけられ、振り返る。そこには純のタキシードから着替え、しラフなノーネクタイのスーツ姿になった優馬がっていた。の姿はない。
「さんはどうした?」
「着替えてから親戚への謝罪と見送りをしてくれてる。俺はちょっとに当たりたいって言って抜けしてきたんだ」
「そっか。ほらよ」
K はに持っていた温かい缶コーヒーをふわりとなりに投げた。
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パシッと優馬がそれを受け取る。
気良い音をてては同にプルタブをけた。の缶コーヒーとはいえ、烈な甘さとっぽいコーヒーの苦みがいっぱいに広がる。
級ホテルのエントランスく、流のフランス料理と本何万円もするヴィンテージシャンパンが振われていた所のすぐで、商数百億の社と優秀な若医師である兄弟は、数円の缶コーヒーを啜った。
「うめえな」
「ああ、昔のが蘇るぜ」
顔を見わせてはさく吹きした。し苦くて喉に残るこの。それはがまだ貧しくの活も見えない絶望な々の、敬が夜のバイトけに買ってきた本の缶コーヒーを狭いアパートの階段で分けってんだ、あの頃のと全く同じだった。
「なんだかみたいだったよ」
優馬が缶コーヒーのみを見つめながらぽつりとつぶやいた。
「義父さんが逮捕されて、兄ちゃんがものすごい会社の社だったってわかって、俺まだが追いついてない」
「俺もさ」
敬は苦笑して夜空を見げた。
「まさかおの結婚式であんなドラマみたいな修羅になるとはわなかったよ。俺が社だってことも、おには隠し通して墓まで持っていく気だったしな」
その言葉に優馬はしだけ顔を伏せた。
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自分がどれだけ兄に守られ、その自己犠牲のにあぐらをかいてきてきたのか、今というを迎えるまで、自分は兄の本当のさに気づくことすらできていなかったのだ。
優馬は照れ隠しのようにさく笑い声を漏らしながら言った。
「もっとく言えばよかったな」
その声にはい悔と兄への申し訳なさが滲んでいた。
「もっとく俺の方から、自の兄貴だってきな声で言えばよかった。兄ちゃんが卒だってバカにされたあの瞬、すぐにちがって兄ちゃんを守ってやればよかった。俺はずっと兄ちゃんに甘えてばっかりだった」
悔しそうに唇を噛む弟に向かって、敬は静かに首を振った。
「おが派な医者になった。それで分だろう」
敬の目は都会の夜景よりも優しく温かいを帯びていた。
「俺がを啜ってに物狂いで働いてきたのは、俺自が成功して偉くなるためじゃない。おがを叶えて、誰かに胸を張って『医者です』って言えるを待っていたんだ」
K は質素なで缶コーヒーを握りしめながら誇らしげに笑った。
「俺が社になったことなんてどうでもいい。今おが自分のでち、さんを守り抜く姿を見せてくれた。俺のの苦労は最の形で報われたんだよ。俺にとっての本当の誇りは会社じゃない、おたち族だ」
その言葉に優馬の目からつうっと筋の涙が伝った。