"父の残した翼" 第5話
「そう、そうなのね。ありがとう。助かるわ」
声が震えそうになるのを必でこらえた。
「どういたしまして。それじゃあまた夜に。してるよ、ゆみ」
そう言って彼は話を切った。
話越しに残された「してるよ」という言葉が、まるで鋭い刃のように私のに突き刺さった。
彼はなぜそんな嘘をつくのだろう。おはどこへ消えた?
そしてなぜ平然と「入した」などと見え見えの嘘をにできるのか。
私はまるでパズルのピースを探すようにのを歩き回った。
彼の鞄、クローゼット、机の引きし、何かがかりはないか。
そして彼の斎のゴミ箱のに、くしゃくしゃに丸められた数枚の切れを見つけた。
広げてみると、それはの ATM の利用細だった。付は 3 、結婚式の翌だ。
そこに印字されていたのは「現引」の文字。
そしてその額は私たちが頂いた祝儀の計額とほぼ致していた。
彼の個座からが引きされていたのだ。
祝儀を入したのではなく、自分の座から現を引きしていた。体何のために?
そのの午、私は母の部へった。母は窓のをぼんやりと眺めていた。
その背がひどくさく、儚げに見える。
「お母さん」
私が声をかけると母はびっくりと肩を震わせて振り返った。
その目に浮かぶのは怯えと、そしていしみのだった。
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「ゆみ、何かあったの?」
「ううん。何でもない。ただお母さんの顔が見たくなって」
私は母の子の隣に座り、麻痺でかない母のをそっと握った。たく力のないだった。
「お母さん、もし何か辛いことがあったら私に話してね。どんなことでもいいから。私はお母さんの方だから」
そう言うと母の目から筋の涙が静かにこぼれ落ちた。母は何も言わなかった。
ただ首を横に々しく振るだけ。その唇は固く結ばれ、何かを必に堪えているようだった。
言えないのだ。言いたくても、何かの理由で言うことができないのだ。
夜になり、直さんが帰宅した玄関の音に私の体はばった。
だが何事もなかったかのように彼は穏やかにそのの来事を話している。
その隣で私は息を殺しながら彼の顔をまともに見ることができなかった。
消えた祝儀のこと、の細のこと、何も聞けなかった。
今それを問い詰めても彼はまた巧みな嘘で逃げるだけだろう。
確かな証拠を掴むまでは、私は今まで通り、夫を信じている妻を演じなければならない。
事が終わり、いつものがやってきた。夜の 10 過ぎ。
「じゃあ僕はちょっと母さんの様子を見てくるよ」
そう言って直さんが席をった。
私は「ええ、お願いね」と、泣きしそうな気持ちを抑えて微笑んだ。
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彼はリビングをて隣の母の部へ入っていく。
やがてカチリと内側から鍵が閉まる音が、静まり返った廊にさく響いた。
私の臓がきく鼓する。本棚に隠したカメラのさな赤いランプが点灯しているはずだ。記録が始まった。
そして私のく、あまりにも脆い幸せが終わろうとしていた。
リビングのソファに座り、私はただひたすら隣の部のドアを見つめていた。
計の針がカチカチとを刻む音だけが、夜更けにきく部に響いている。
午 10 半、夫の直が母の部に入ってからもう 30 分が過ぎようとしていた。
私のはたい汗でじっとりと湿っていた。
本棚の写真ての裏に仕掛けたあのさな黒い塊が、今この瞬も部のの全てを記録し続けているはずだ。
夫を盗撮している。その事実に胸が罪悪で押しつぶされそうだった。
つい数週まで私はあのの腕のでからのらぎをじていた。
彼の言葉を、その優しさを、何つ疑うことなんてなかった。
学代の友かおりが言っていた「直さんみたいな誠実な、今の代に々いないよ。ゆみ、絶対に幸せにならなきゃだめだからね」
誰もが彼のことを完璧なだと信じていた。私自もの底からそうっていたのだ。
だからこそ信じたくなかった。
祝儀が消えたのもきっと何かい事があるのかもしれない。
彼が抱えている問題を私に配かけたくなくて、で解決しようとしているだけなのかもしれない。