"洞窟に残った少年の声" 第3話
話を切った、子は古い引きしをけた。奥から黄ばんだ記帳を取りす。ページをめくり、19875の記録を探した。
そこには、まだ女だった自分の字でこうかれていた。
「56。今、実君は変だった。ずっと誰かを警戒しているようだった。昼のに話しかけたら、『お姉さん、たちが怖い話をしているのを聞いたことある?』と聞かれた。何のことか分からないと言うと、笑ってごまかした」
次のページには、さらに震えるような文字が残っていた。
「57。実君がいなくなった。にり込んで戻ってこない。佐藤恵さんは泣いていた。でも制作のたちは妙に落ち着いている。まるで、こうなることをっていたみたい」
子の背筋にたいものがった。
当は、ただの失踪事件だとっていた。だが、今読み返すと、自然なことばかりだった。
特に記憶に残っていたのは、実が消えた夜のことだった。
子はトイレへ向かう途、制作事務所のを通りかかった。からたちの声が漏れていた。
「こんなことになるなら、最初から始めなければよかったんだ」
「今さらそんなことを言うな。もう遅れだ」
「あの子が何をっているかも分からないじゃないか」
「っていたら、どうする?」
「もう遅いんだよ」
そのはが分からなかった。
けれど今なら分かる。
広告
彼らは実のことを話していたのだ。
子はすぐに古い聞記事を調べ始めた。だが、実の失踪に関する記事は驚くほどなかった。どれもく、扱いは軽かった。
さらに実の過を調べると、もっと奇妙なことが分かった。
実は神戸の児童施設で育ち、その、女優の佐藤恵に引き取られたとされていた。しかし施設の記録には、自然な空があった。まるで誰かが彼の過を図に消したようだった。
そして子は、何度も同じ名にき当たった。
渡辺浩司。
1987当、文部省の事務次官級のにあった男。文化コンテンツ事業に関わり、ドラマ『』の支援にも名を連ねていた物。
現は文部科学臣となっていた。
さらに記録を追うと、実が失踪した198757、渡辺浩司が清寺の撮現を訪れていたことが分かった。
子は画面ので息を止めた。
22、制作事務所で聞いたたちの声。
そのに、渡辺浩司がいたのかもしれない。
翌、裕からテープを受け取った。
古いカセットプレイヤーに入れて再すると、雑音の奥からの声が聞こえた。
「僕は、彼らが何をしたか見た。絶対に忘れない」
子の目から涙が落ちた。
あの、現で見た11歳のは、自分のに迫る危険をじながら、それでも真実を残そうとしていた。
記者としての本能が目覚めた。
広告
これは単なる失踪事件ではない。
22、誰かが葬ってきた事件だ。
子はノートパソコンをき、記事をき始めた。
実の最の声を、もう度世のに響かせるために。
阪内の古いアパートで、林は27、ほとんど同じ毎を繰り返していた。
朝4半に起き、病院の清掃に向かう。午3に仕事を終え、誰とも話さず部に戻る。さなワンルームには、必最限の具しかなかった。
しかし机の引きしだけは違っていた。
そこには、封をされないまま積みねられたの束があった。どれも同じ相に宛てたものだった。
「田実様」
は45歳だったが、髪にはすでにいものが混じり、く刻まれた皺にはい沈黙のが刻まれていた。
1982815、彼女のは完全に変わった。
夫の鈴次郎が働いていた造所で原因の災が起こり、彼は同僚を助けようとして命を落とした。は妊娠7かだった。きなショックで産となったが、まれた息子は奇跡にき延びた。
子どもの名は実。
夫と緒に考えた名だった。
けれど夫を失った、のは壊れていった。経済な困窮だけではない。突然すべてを奪われた痛みが、彼女からきる力を奪っていた。
1985、はきな決断をした。
神戸の児童施設に、実を預けたのだ。
3歳の実は、なぜ母親が自分を置いていくのか理解できなかった。
「お母さん、いつ迎えに来るの?」
その潤んだ瞳を見た瞬、のは砕けた。