"銀の指輪の応募者" 第2話
ユトののが真っ赤に染まった。唇がかすかに震えていた。
しかし、背の赤ちゃんが驚いて泣きさないよう、彼は辛うじて声をくしてをいた。
「本当に……本当に申し訳ありません。しかし、妻が昨夜急病で救急に運ばれ、どうしても子供を預ける所がなかったんです。お願いします。これが、私が徹夜で描きげた設計図です。度だけ、たった度だけでいいので、会をください」
ユトの声は、切実さで完全に枯れていた。
彼の目には涙が滲んでいたが、今にも流れ落ちそうなその涙を歯をい縛って堪え、くをげた。
しかし、事部は呆れた表でユトをからまで見ろすと、いため息をついてたく首を横に振った。
「事は誰にでもあるだろう。だが、面接会に赤ん坊を連れてくるのは常識れだ。の者の邪魔になる。静かに帰ってくれ」
そして、事部は横に向かって、顎でさく図を送った。
その図にわせ、ロビーの両側から黒い制を着た柄な警備員2が、ずかずかと音をててづいてきた。
「ていってください。ここは関係者以ち入り禁止です」
警備員の調は事務で、ユトの腕を掴むその力は無慈なほどにかった。
「待ってください! 設計図だけでも提させてください!」
ユトが必に叫んだ。
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しかし、警備員たちはその言葉にを貸そうともせず、ユトの腕をさらにく引っ張った。
その瞬だった。ユトが胸に抱きかかえていた古い類カバンのファスナーが、両側からの力に耐えきれず、鈍い音をてて弾けんだ。
カバンのから、彼が命をかけて描いた図面がバラバラとに散らばった。
A3サイズのい設計図面が、たい理ののを、まるでいびらのようにヒラヒラとい散っていく。
そのいのには、びっしりと鉛で描かれた線があった。定規を使わずにフリーハンドで描かれたその線は、1本1本が驚くほど精密で、言葉にできないほどのが込められていることが目で分かった。
数枚の図面が、ロビーののあちこちに虚しく散らばる。
それは、ユトが建設現の片隅で独学し、血を流しながら夜を徹して、1枚1枚描きげてきた血と汗の結晶だった。狭いワンルームのさな卓で、眠る赤ちゃんの隣にうつむき、の甲で眠気を擦りながら鉛をさなかった々の全てがそこにあった。
ユトは警備員のを必に振り払い、理のに膝をついた。
「頼む……これだけはダメだ。これは、俺たちの……族のなんだ!」
震えるで、慌てて図面をかき集め始める。が破れたら、汚されたら、誰かので踏まれたら――1枚でも失ってはならないという執に、彼の指先はくなるほどだった。
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散らばった図面を胸に抱きしめると、ユトの目から、それまで必に堪えていた涙がポロポロとこぼれ落ち、い図面のにさなシミを作った。
その瞬、背のおんぶ紐ので、ハルトが父親の激しいきと穏な空気に驚き、「わぁっ」と激しく泣きした。
1歳になったばかりの赤ちゃんの甲い泣き声が、い井のロビー全体を満たしていく。
細くかいその泣き声が理の壁に反響すると、待席の応募者たちの何かは顔を顰め、あからさまにを塞いだ。
ユトは膝をついたまま、片での図面を必にかき集め、もう片方のをろに伸ばしておんぶ紐のハルトの背をトントンと優しく叩いた。
「ハルト、泣くな……。父さんがここにいるよ。泣かないでくれ、息子よ……」
ユトのから、子供をあやす震える囁きが漏れた。
しげに泣く赤ちゃんの背を叩く、ゴツゴツとした。そのの甲には、過酷な建設現でセメントや鉄筋を毎掴んでできた、くいタコがいくつもできていた。
この図面1枚1枚には、妻の治療費が、子供のミルク代が、そしてこのさな族がをき抜くための唯の希望が込められていた。ユトは流れる涙を必にみ込み、くしゃくしゃになった図面の束を胸にく抱きしめ、声もなく咽び泣いた。
まさに、そのだった。
ロビーの奥く、般の社員は決して利用することのできない会専用エレベーターの扉が、音もなくにいた。