"母が家を消した日" 第4話
のがを握りしめる。がくしゃりと音をてた。しばらくそのに座ったままけなかった。のが真っになっている。
どうして、どうして――言葉がからない。でもがなかった。族がいつ戻ってくるかわからない。はちがった。そしてスマートフォンを取りした。5、夫がくなった、息子が使い方を教えてくれたスマートフォンだ。普段は話とメールしか使っていなかったが、写真を撮ることもできる。そっと指でカメラを起させた。
1枚目のを画面に収める。シャッター音が静かな部に響いた。
『お母さんの今について』『施設リスト』『マンション売却の予定』そして健のメモ。すべてのを1枚ずつ丁寧に撮した。文字が読めるように何度も確認する。緊張で元が震えてピントがわないもあったが、呼吸をして取り直した。
最の1枚を撮った、玄関のチャイムが鳴った。
の息が止まりそうになる。もう戻ってきたの? 慌ててを元の所に戻し、類のに隠した。そして部をた。廊を歩きながら呼吸をする。落ち着かなければならない。
玄関のドアをけると、宅配便の配達員がっていた。
「様ですね。お荷物です」
はホッとしながら受け取る。まだ族は戻っていなかった。
配達員がった、はリビングのソファに座り込みました。
広告
スマートフォンを握りしめたまま見つめる。撮した写真が確かにそこにあった。証拠だ。
私はこれからどうすればいいの? 答えはまだ見つからない。でも1つだけはっきりしたことがあった。息子たちの計画はもう始まっているのだ。そしてにはそれを止める力があるかどうか分からなかった。
くからセミの声が聞こえてくる。のの差しが眩しく部を照らしていた。でものは凍りついたようにたくなっていた。
私は私のを取り戻さなければならない。その決だけがので静かに燃えていた。スマートフォンを握るに力が入る。このさな械のに、すべての真実が入っているのだ。
やがての音が聞こえてきた。族が戻ってきたのである。は急いでスマートフォンをポケットに入れる。そして何事もなかったかのように笑顔を作った。
玄関のドアがく。
「ただいま、お母さん」
健の声が響いた。
「お帰りなさい」
はいつもと変わらない声で答える。でものは嵐のように荒れていた。その夜は1部にいた。、息子たちは戻る。そしてまた静かな々が戻ってくるのだ。でも、もうと同じではなかった。は真実をってしまったのである。ベッドに横になりながら井を見つめ、暗ので1考え続けた。
広告
私は負けない。その言葉を何度もので繰り返した。
820、曜の午。世田区にある総病院の脳神経科。は診察のの子に座っていた。隣には健と美紀が並んでいる。
「お母さん、緊張しないでくださいね」
美紀が優しい声で言った。でもその目の奥には別のが見える。はそれを見逃さなかった。
「ええ、丈夫よ」
は静かに答える。実はこの1週、は綿密な準備をしていた。毎聞を読み、記をき、計算問題を解いていたのである。認症の検査で聞かれそうな質問をインターネットで調べ、スマートフォンの使い方も改めて勉した。絶対に負けない、そのいだけがを支えていた。
診察のドアがく。
「様、どうぞ」
護師がへ案内した。3は診察に入る。い壁と医療器が並ぶ部だった。医師は50代くらいの男性である。穏やかな表で3を迎えてくれた。
「こんにちは。脳神経科の田と申します。よろしくお願いいたします」
は丁寧にお辞儀をした。
「では、ご族の方からお話を伺いましょうか」
田医師が健と美紀に目を向ける。
「はい、先」
美紀がすぐに話し始めた。
「母は最、物忘れがひどいんです。例えば同じ話を何度も繰り返したり、買い物にって何を買うつもりだったか忘れたり……」
のが膝ので握りしめられる。田医師がメモを取りながら聞いている。