"何もしない姑の居場所" 第1話
絹は玄関の鍵をけ、ゆっくりと靴を脱いだ。
午10。息子の俊也も、嫁のリナも、すでに勤している。68歳の絹にとって、この静けさはよかった。誰にも邪魔されず、誰の目も気にせず、好きなように過ごせるだった。
彼女はスリッパに履き替え、リビングへ入った。窓から差し込む朝が眩しく、絹は顔をしかめながらカーテンをし閉めた。それから、いつものようにソファへ腰をろし、リモコンをに取った。
テレビをつけると、報番組が流れていた。芸能が笑い、司会者がげさな声で反応している。絹は毛布を膝にかけた。11の朝はし肌寒い。けれど、エアコンをつけるほどではない。
費がもったいない。
そうった直、絹はしだけ元を歪めた。
本当は違う。リナに文句を言われるのが面倒なだけだった。
テーブルのには、昨夜のお菓子の袋がそのまま置いてあった。せんべいは半分ほど残っている。絹は袋をけ、1枚取りしてに入れた。パリパリという音が部に響き、テレビの音となった。
「今の運勢は、蟹座が5位か」
絹はさく呟いた。信じているわけではない。ただ、毎朝チェックするのが習慣になっていた。
画面では料理コーナーが始まった。名シェフがく野菜を切り、豚肉をトマトで煮込んでいる。
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「豚肉のトマト煮込み、美しそうね」
絹はスマホを取りし、メモアプリをいた。
“豚肉 トマト煮込み”
そう打ち込む。
リナに作ってもらおう。
絹がリナに料理を頼むのは簡単だった。テレビ画面を見せて、「これ、美しそうだったのよ」と言う。リナは最初、「があれば」と答える。けれど絹が何度か「まだ?」と聞けば、結局作ってくれる。
罪悪がないわけではない。
でも、リナは若い。料理くらいできるはずだ。
絹がリナの齢の頃は、毎3作っていた。夫のため、息子のため、文句も言わずに台所にった。
だから今は、してもらう番だ。
絹はそうっていた。
午11、絹はソファからちがり、トイレへ向かった。膝はし痛むが、歩けないほどではない。用を済ませて戻ると、また同じ所に座った。
テレビでは倫騒のニュースが流れていた。
「最の若い子は」
絹は画面の女優を見ながら呟いた。けれど、その女優が誰なのかはらない。ただ批判する調で言うのが癖になっていた。
正午がづくと、お腹が空いてきた。絹は台所へ向かい、蔵庫をけた。にはリナが作り置きした料理が並んでいた。タッパーに入った煮物、サラダ、昨夜の残りのカレー。
「これにしようかしら」
絹はカレーのタッパーを取りした。見ると、3分ほど残っている。
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昨夜、リナは「の夕飯にもできるようにめに作りました」と言っていた。
それでも絹は、全部を子レンジで温めた。
きな皿にカレーを盛り、ご飯も茶碗に2杯分よそった。
「いただきます」
1でテーブルに座り、べ始める。テレビの音だけが聞こえる。
カレーは美しかった。リナは料理がだ。絹はそれを認めている。けれど、直接褒めたことはない。
褒めると調子に乗る。
そうっていた。
べ終わった皿は、シンクにそのまま置いた。
「あとで洗おう」
そういながら、絹はまたソファへ戻った。
午1、昼のドラマが始まった。絹はそれを見ながら、うとうとし始めた。
気づくと午3になっていた。
「あら、寝てたのね」
首がし痛い。ソファで寝るといつも痛くなる。それでもベッドへくのは面倒だった。
午4、リナから話がかかってきた。
「お義母さん、今のゴミ、していただけましたか?」
絹は瞬、固まった。
ゴミ。
今は燃えるゴミのだった。
「あ、忘れていました」
「そうですか。分かりました。は燃ゴミですからお願いしますね」
リナの声はたかった。
「はい、分かりました」
話が切れた。絹は玄関を見た。ゴミ袋が靴箱の横に置かれている。朝、リナが「今お願いします」と言っていたのをいした。
「1くらい、いいでしょう」
絹はそう自分に言い聞かせ、再びテレビに線を戻した。
午6、リナが帰ってきた。
「ただいま」
玄関にっても返事はなかった。