"鬼母の末路" 第1話
「パパ、お帰りなさい。今のごちそうは、お湯ご飯だよ」
無邪気に笑う歳の娘の頬はこけ、妻はボロボロのを着て俯いていた。
暗い部の卓に置かれているのは、お湯をかけただけの、ほんのわずかな米。
毎万円。
族が絶対に活に困らないよう、俺は血を吐くいでドイツから仕送りを続けていたはずだった。
だが、このの俺はまだらなかった。
この異常な景の裏に、内によるおぞましい裏切りと支配が隠されていることなど。
「ふう。やっぱり本のはえるな」
い息を吐きながら肩をすくめても、俺の取りは驚くほど軽かった。
俺の名は柏。歳。
自部品メーカーの技術職としてドイツに赴任して丸。きなプロジェクトを無事に完遂し、ようやく本への帰任辞令がたのだ。
に引くきなスーツケースのには、妻の真由に頼まれていた本未発売のスキンケアセットと、歳になる娘の紗英が欲しがっていたきなテディベアが詰まっている。
驚く顔が見たくて、わざと帰国を教えなかった。
どんな反応をするだろうか。
ドイツでのは、決して楽なものではなかった。
言葉の壁。文化の違い。そして何より、族とれて暮らす孤独。
毎晩、誰もいないたいアパートの部に帰る。
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真由と紗英の笑顔が恋しくてたまらなかった。
だが、俺には族を養うというい責任があった。
だからこそ、活費として毎万円というを欠かさず本の座に送し続けてきたのだ。
「俺がいない、寂しいいをさせるんだ。せめておの苦労だけはさせたくない。美しいものをべて、好きなものを買って、楽しく過ごしてくれ」
赴任、真由にそう伝えたの、彼女のしたような笑顔を今でも覚えている。
毎万円あれば、京郊のマンションでの暮らしならかなり余裕があるはずだ。
紗英に習い事をさせたり、休は真由も友とお茶を楽しんだりしているだろう。
そんな像が、過酷な勤務を乗り切る唯のの支えだった。
駅から歩くこと分。
見慣れたマンションのに着いた。
刻は午を回ったところだ。
「あれ? 気がついてないな」
見げると、俺たちの部である〇号の窓は真っ暗だった。
だろうか。
いや、今は平だ。
紗英の学も真由のパートも終わって、で夕飯をべているのはずだ。
抹のを抱えながらエレベーターに乗り、階へがる。
静まり返った廊を歩き、自分ののドアのにった。
ポケットから取りした鍵を鍵穴に差し込む。
ガチャリ、というたい属音が響いた。
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「ただいま」
「……うわっ」
ドアをけた瞬、わず声がた。
が効いているはずの内は、よりもえ切っているようにじられた。
それどころか、空気が淀んでおり、カビと埃が混ざったような、何とも言えない活臭がをつく。
玄関の気のスイッチを押したが、カチカチと虚しい音が鳴るだけでかりはつかない。
「おい、おい、球が切れてるのか? 真由? 紗英? いないのか?」
暗の、探りで靴を脱ぎ、リビングへと続くドアをけた。
そこには、信じられない景が広がっていた。
リビングの隅で、さな懐灯がつ、々しいを放っていた。
その頼りないに照らされて、つのがテーブルのに座っている。
「え……パパ?」
かすれたさな声。
毛布にくるまり、震えるように座っていたのは、する娘の紗英だった。
だが、俺の記憶にある、ふっくらとしたらしい頬の面はない。
目は落ちくぼみ、腕は枯れ枝のように細く、まるで難民キャンプの子どものような姿だった。
「紗英……お、どうしたんだ、その姿は? 真由、真由はどこだ?」
「あなた……」
紗英の隣から、幽霊のようにふらふらとちがったのは、妻の真由だった。
いつも綺麗に入れされていた黒髪はパサパサに傷み、顔は気。
着ているは毛玉だらけで、所々が擦り切れている。
かつてるく笑っていた歳の妻の姿はそこになく、まるで歳も歳も老け込んだ別のようだった。