"十三年目の灯火" 第1話
200211、神戸の町は朝からり続くたいに包まれていた。
晩というには、すでにの気配が濃い夜だった。からりてくるがを斜めに吹きつけ、歩のアスファルトはの灯りを映して、滲んだようにっていた。傘を差した々は肩をすぼめ、に駅や繁華へ吸い込まれていく。にい町らしく、塩の匂いを含んだ湿った空気が肌にまとわりついていた。
その夜、神戸内の繁華では、1台のタクシーが客待ちの列に並んでいた。
体には「港交通」とかれている。元では古くからられている、さなタクシー会社だった。
運転席に座っていたのは、田茂、54歳。
港交通で20以ハンドルを握ってきた、昔気質の運転だった。
田は決して数のい男ではなかった。けれど、物腰は柔らかく、仕事ぶりは真面目だった。く酔ってき先をうまく言えない客にも、苛つことなく辛抱く付きい、必ずまで送り届けた。座席に忘れ物があれば、翌、自分の休みを潰してでも届けにった。
「田さんに送ってもろたらや」
そう言って、わざわざ田を指名する配の客もなくなかった。
そんな田にも、には言わない苦労があった。
19951、神戸をきな震が襲った。朝のことだった。田が暮らしていた町のさなも、そのに倒れてしまった。
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族が無事だったことだけが、幸の幸いだった。
それでもを失った田は、妻の佳代子と1息子の健を連れ、郊の団へ移りむことになった。暮らしをて直すために借りたは、まだ残っていた。
それをしでもく返そうと、田はが嫌がる夜の勤務をんでく引き受けていた。
団のでは、妻の佳代子との健が田の帰りを待っていた。田は毎晩のように夜遅くまでをらせ、け方くにそっと帰ってくる。
佳代子は夫が帰ってくるまで、玄関のさな灯をいつも消さずにつけていた。台所には、夫がいつ帰ってきても温かいものをべられるように、ふかした芋や噌汁の鍋が用されていた。
決して裕福ではなかった。
それでも、を寄せうように暮らす、どこにでもいる族だった。
その夜も、田の乗務はいつもと変わらず始まっていた。
駅で客を乗せ、宅へ送り、また繁華へ戻ってくる。のせいで、夜が更けるにつれて流しの客よりも、繁華での客待ちがくなっていた。
刻は午1をし過ぎた頃だった。
ネオンのかりがまばらになり、通りも減り始めたその、田のタクシーの部座席に、1の男が乗り込んできた。
その瞬から、田のい夜は、度と戻れない所へ向かってき始めていた。
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男が部座席に乗り込んでからしばらくして、田は会社の無線に連絡を入れた。
「港交通、田です。区の方へ、距になりそうです」
その声を受けたのは、その夜の当直だった配係の女性だった。彼女は、田と同じ職で働いてきた。だからこそ、いつもと違う気配をはっきりじ取った。
の聞き込みで、彼女はこう話している。
「あの晩の田さんの声は、いつもの落ち着いたじやなかったんです。ちょっとこわばっているというか、で、息を詰めているみたいでした」
女性は無線を見つめながら、田からの次の言葉を待った。
しかし、無線はそこでふっと切れた。
「距になりそうです」
それが、田の最の連絡になった。
その、田の声が無線から聞こえることは度となかった。
夜がけても、田のタクシーは庫へ戻らなかった。業務が終わる刻はとうに過ぎていた。会社が何度も無線で呼びかけたが、応答はなかった。
会社の話から田の携帯話にかけても、虚しく呼びし音が鳴るばかりだった。
「田さんに限って、無断で乗務を放りすなんて考えられへん」
同僚たちは々にそう言った。
それほど田は、真面目な男だった。
方、団で待つ佳代子のもとにも、夫は帰ってこなかった。
玄関の灯は晩ついたままだった。
台所のふかした芋は、すっかりたくなっていた。