"柿の木の下、三十年の帰郷" 第6話
たけしは振り返って私を見た。最初は面らい、次に私の着ている制と肩の階級章を見て顔面がさっと青ざめた。
私は歩踏み込んだ。狭い台所では男 2 がつといっぱいになる。私はたけしの伸ばした腕を掴み、ぐっとひねりげた。
痛いと鳴をあげ、たけしは膝から崩れ落ちた。そのままずるずるとにへたり込む。
に座り込んだ母が私の名を呼んだ。その名で呼ばれるのは 20 ぶりだった。私はをした。
たけしはにうずくまり、腕を抱えて荒い息をついている。私はしゃがみ込み、母を抱き起こした。肘は擦りむき、血が滲んでいる。私は自分の袖でそれを拭った。
母は震えるで私の首をく握りしめた。
「健、どうして今帰ってきたんだい?」
「1 く帰ってきたんだよ」
母の目から再び涙がこぼれ、私のの甲に落ちた。その涙はひどくかった。
たけしがから起きがり、部の隅へ逃げた。顔は真っ青ですっかり酔いが覚めたようだ。をパクパクさせて何か言おうとしたが言葉にならなかった。
私はちがり母を背にかばって彼を見ろした。私は彼より 1 つ分きかった。
「たけし、今ここできっちり説してもらおうか。母さんに何をした?」
彼は目を泳がせどもりながら言った。「な、何もしてない。ちょっと伝いに来ただけで」
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「伝いに来てを突きばすのか」
彼は黙り込んだ。母がろから私の裾を引いた。
「健、をさないでおくれ。たけしも気がきくなってただけだから」
振り返ると母の顔には涙の跡が乾き、髪はボサボサだった。着ている着のボタンが 1 つちぎれ、の古いセーターが見えている。
そのセーターは私が入隊したに母が編んでくれたものだ。サイズがわなくなり、私が実に送り返したものを母をほどいて自分のために編み直したのだ。
胸のにいものを詰め込まれたような息苦しさをじた。私は振り返ってしゃがみ、に転がったストーブを起こした。点スイッチを押し、もう 1 度を灯す。ストーブの赤いが母の顔を照らした。
その顔はまるでの苦労が癒された畑のようだった。
たけしはまだ部の隅で縮こまっている。「帰れ」
私がそう言うと彼は逃げるように台所から転がりていった。がバタンと鳴り、で犬が吠え、音はざかっていった。
母は台所のさな子に座り、ランプのかりを両で包み込んでいた。灯りに照らされた顔で私を見ていった。
「健、ご飯はべたかい。鍋にうどんが残ってるよ。まだべてない?」
母は台にをついてちがろうとしたが、に力が入らずによろけた。私が支えようとを伸ばすと、母はそれをで遮り、自分で鍋のところへ歩いていった。
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蓋をけ、お玉でかき混ぜる。台所のにふわりと温かい湯気ががり、うどんのいい匂いが広がった。
私はろから母の丸まった背を見ていた。灯りので髪が透けて見える。鍋を握るその指は関節が太く変形していた。
だ。この 20 私はの世界で々なことを経験した。訓練、任務、何千もの部を指揮してきた。でも母はこの台所で 1 20 きてきたのだ。
そして今私のために鍋にうどんを残してくれていた。喉の奥が詰まって言葉がなかった。私はろを向き、壁にかかった古いカレンダーを見るふりをしての甲で目を拭った。
母はうどんを器によそい、私のに渡した。「座ってべなさい」
私は座敷に座り、ランプのかりを頼りにうどんをすすった。麺は柔らかく煮こまれていて、子供の頃にべたのと同じだった。
母は私の向かいに座り、針と糸を取りしてちぎれた着のボタンを縫い始めた。その縫い目はやはり隙なく綺麗に揃っていた。
私は母に々なことを聞きたかった。この数どうやって過ごしてきたのか。たけしのことは体どういうことなのか。その、その、その目はどうしたのか。
しかしからるのはうどんをすする音だけだった。ずるずるとすする音と台所の焚きがパチパチとはぜる音だけが響いた。
べ終わり、私は器を台に置いた。