"柿の木の下、三十年の帰郷" 第5話
「よし子さんの息子か?どうして分かったんですか?」
「目元が母親そっくりだからな」
老はアクセルを踏み込み、タクシーはへ向かった。はどんどん落ち、両脇ののが黒く迫ってくる。部座席に座っているとたいが首元に入り込み、のの温かさがしずつえていくのをじた。
「おじさん、うちの母さん、最どうしてますか?」
老はし黙り込んでから言った。「まあ、元気にしてるよ。ただちょっとに転んでな」
私はわずを乗りした。「どこを怪したんですか?ひどいんですか?」
「いや、のの畳で滑っただけだ。腕をし擦りむいたくらいでしたことはない」
私はほっと息をつき、また訪ねた。「母は 1 暮らしですが、普段は誰か様子を見てくれてるんですか?」
老は今度は何も答えずアクセルをく踏み込んだ。チェーンがギシギシと鳴る。
何かおかしいとい、もう度聞くと老は言葉を濁しながら言った。「よし子さんのそばには世話を焼くがいるからな」
私の臓がドクンと鳴った。話の向こうのあの男の声をいした。「誰ですか?」
「のにんでるたけしだよ。ってるだろう」
たけし。ので記憶を探りやっといした。母よりしでくに妻をくし、1 暮らしをしている男だ。私がにいた頃からにいたが交流はほとんどなかった。
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の入りの柿ののでよく将を指していたのを覚えている。
「たけしがどうかしたんですか?」
「いや、別に。ただよくあんたのに伝いにってるらしい。焚きを割ったりを汲んだり。の連はあれこれ言ってるがね」
老のその言葉で私は全てのを悟った。
タクシーがの入りにつき、私はおを払って荷物をろした。すっかり暗くなり、にはポツポツと灯りが点っている。犬が 2 度吠えた。
私は古い柿ののにち、懐かしい焚きの燃える匂いを嗅いだ。く息を吸い込むと胸のが激しく波打った。
へ続くのは目を閉じていても歩ける。100m ほどみ 2 軒のを通り過ぎて角を曲がるとがののが見えた。の隙から灯りが漏れ話し声が聞こえてくる。
づくと母の泣き声が聞こえた。その泣き声には聞き覚えがあった。私が子供の頃、父がくなった、母は台所の隅でこうして泣いていたのだ。声を押し殺し、肩を震わせて。
でももう何もあんなに泣くことはなかったはずだ。
もう 1 つの声は男のものだった。酒臭いぶい声だ。
「よし子、なんで泣いてるんだよ。俺がを払わないわけじゃないだろう。あんたの息子がどれだけ偉くなったからないが、あんたの面倒を見てくれたか。1 に話の 1 本も寄こさないじゃないか。
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あんな息子に何を期待してるんだ」
母が答えた。「たけしさん、もう言わないで。帰ってちょうだい。息子が帰ってくるんだから」
たけしは嘲るように笑った。「帰ってきたからどうだって言うんだ。どうせ 3 ですぐ帰るんだろう。あいつがあんたのために何をしてくれる?いいか?俺たちのことは遅かれかれ決めなきゃならないんだ。あんたが 1 でこんなボロにしがみついて何のがある?」
ドスンと何かがぶつかる音がした。そしてたけしが言った。「今は帰らないぞ。2 できっちり話をつけるんだ」
母の声がきくなった。「ていって。ていかないなら声をすよ」
「せばいいさ。俺たちの関係はのみんながってるんだ。あんたが声をせば派な息子の顔にを塗るだけだぞ」
そののでガタンと鈍い音がした。子が倒れたような音と母のい鳴。
私はのにったままに持っていた菓子とダウンコートをバサっと面に落とした。の裏からのてっぺんまで気に血が湧きった。
私は力任せにを蹴りげた。バンと扉が壁にぶつかる音が響いた。台所の戸がきっぱなしになっている。
母は台所の横に倒れ込み、片でを支えていた。髪は乱れ、顔には涙がっている。たけしは母のにち、片を伸ばして母を引きずり起こそうとしていた。
台所の古い油ストーブが倒れかけ灯油がこぼれそうになっていた。