"壁の中の美大生" 第7話
だが、伊藤はじっと絵を見つめた。
面に映ったのに、自然な線があった。
田がライトを当てると、絵の具のにく描かれた文字が浮かびがった。
3B。
T.G.
11:20。
そして、壁のような角いのに、さなが描かれていた。
田は息を呑んだ。
「3Bはロッカー。T.G.は郎。11:20は、事件当夜の刻……」
伊藤は静かにうなずいた。
「美紀は、自分が見たものを絵のに残したんだ」
その絵は、12沈黙していた証言だった。
壁ので眠っていた遺体。
偽名座。
贋作の取引台帳。
鈴の証言。
そして最の絵。
それらが1本の線でつながった、佐藤美紀の失踪事件は、単なる恋との喧嘩でもでもなかったことがらかになった。
と欲望、美術界の取引、封じ。
22歳の女は、そのに巻き込まれ、逃げようとして命を奪われた。
伊藤は絵のでしばらく黙っていた。
12、誰にも届かなかった美紀の声が、ようやくそこにあった。
田が静かに尋ねた。
「刑事さん、これで終わりですか」
伊藤は首を横に振った。
「いや。終わりじゃない」
彼は郎の名がかれた資料をに取った。
「ここからが本当の捜査だ。壁のに閉じ込められた12分の真実を、1つ残らず引きずりす」
窓のでは、の面が静かに揺れていた。
19901111の夜から止まっていたが、ようやく音をててき始めていた。
広告
郎の別荘から押収された贋作は、全部で37点にのぼった。
科捜研の鑑定では、い袋をした鑑定員たちが、1枚ずつ絵画を台のに広げていた。いライトが当てられるたび、古びた額縁のがい壁に揺れた。
田は鑑定結果の覧を受け取り、息を呑んだ。
「刑事さん、すべて贋作です。しかも、いくつかは本物とすり替えられた能性があります」
伊藤は無言で類をめくった。
そこには、佐藤美紀の帳にかれていた記号と同じ符号がいくつも並んでいた。
A-12。
M-7。
K-3。
数字とアルファベットの組みわせは、最初はに見えた。だがの別荘に残された美術品カタログと照すると、それが絵画の管理番号であることが分かった。
つまり、美紀の帳は単なるメモではなかった。
取引の記録だった。
田は机のに資料を並べながら言った。
「美紀さんは、贋作の運搬係だっただけではなく、取引の流れまで記録していた能性があります」
伊藤は腕を組み、く答えた。
「ああ。だから殺された」
そのの午、郎は任同に応じた。
取調に入ってきたは、価なスーツを着ていた。背筋は伸び、表には余裕さえ見えた。弁護士も同席している。
伊藤は押収した贋作の写真を机に並べた。
「会、から見つかった絵画はすべて贋作でした」
広告
は写真を瞥し、で笑った。
「私は鑑定士ではない。購入したものが偽物だっただけなら、私も被害者だ」
「では、佐藤美紀さんの帳に、あなたの別荘にあった絵画と同じ記号が残っていた理由は何ですか」
の目が瞬だけいた。
だが、すぐに表を戻した。
「らんな。学の落きではないのかね」
伊藤は次に、封筒に入っていた匿名のを見せた。
佐藤美紀は絵のせいでんだ。
畔のカフェではなく、郎会の別荘を調べろ。
はその文面を見ても、眉つかさなかった。
「くだらん傷だ」
弁護士もすぐにを挟んだ。
「これ以、根拠のない質問を続けるなら、こちらも正式に抗議します」
伊藤は静かに封筒を戻した。
「分かりました。今のところはここまでにしましょう」
は勝ち誇ったようにちがった。
しかし、伊藤はその背を見ながら、ので確信していた。
この男はっている。
そして、まだ何かを隠している。
その夜、伊藤は1で捜査資料を見直していた。
田賢治の証言。
鈴勝の沈黙。
渡辺の消えた取り。
郎の別荘。
最の絵。
すべての線が、1つの所へ向かっていた。
畔のカフェ。
美紀の遺体が見つかった、あの壁のだった。
数、警察署に1本の話が入った。
相は、名を名乗らなかった。
受付の警察官が用件を尋ねると、女はい沈黙のあと、かすれた声で言った。
「佐藤美紀さんのことで、伊藤刑事に会いたいんです」