"消えた女性巡査" 第1話
2003426。
群馬県渋川の伊保温泉は、遅い桜の季節を迎えていた。段の両脇には桃のびらが残り、湯けむりのさと混ざるように、の空へゆっくりいがっていた。観客の笑い声、駄の音、旅館の玄関先で交わされる挨拶。そのすべてが、普段通りの穏やかな午を作っていた。
「今の桜は、本当に綺麗ですね」
渋川警察署の女性巡査、田美咲は、段を見げながらそう呟いた。
美咲は24歳。警察学を卒業してから3目の若い警察官だった。く切りそろえた黒髪に、のそうな瞳。制姿は凛としていて、域の民からも信頼されていた。真面目で責任がく、観客への案内ひとつにも丁寧に応じる姿は、温泉の々にもよくられていた。
隣を歩いていた田巡査部が、柔らかく笑った。
「美咲ちゃんも、たまには温泉にでも浸かってリラックスしなさいよ」
田は42歳。美咲にとって父親のようなであり、署内でも輩の面倒見がよいことでられていた。美咲がまだ配属されたばかりの頃、類のき方から巡回の民への接し方まで、根気よく教えてくれたのも田だった。
美咲はし照れたように笑った。
「ありがとうございます。でも、今度の週末は実に帰る予定なんです」
美咲の実は内にあった。
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父の正、母の千鶴子、そして弟の健太との4族。特に母の千鶴子は、娘が警察官になったことをから誇りにっていた。
「警察官って変だけど、美咲がやりがいをじているなら、それが番よ」
千鶴子はいつもそう言って、娘を支えていた。
そのの午、美咲は1で温泉の巡回にた。ゴールデンウィークを目に控え、観客は増え始めていた。古くから続く旅館、産物、現代なホテル、段の途につ堂。伊保温泉は、本の温泉らしいを濃く残した美しい所だった。
午3頃、美咲は段のほどにある「吹荘」というさな旅館のを通りかかった。昭初期から続く老舗旅館で、造3階建てのわいい建物だった。
玄関先では、女将の本清子がほうきをに掃除をしていた。清子は63歳。温泉の世話好きな女性で、美咲のこともがっていた。
「美咲ちゃん、お疲れ様」
清子がを振ると、美咲はを止めて会釈した。
「こんにちは、本さん。今はお客様がそうですね」
「ええ、おかげさまで。ゴールデンウィークに向けて予約も順調よ」
美咲は玄関先の鉢に目をやり、穏やかに笑った。
「忙しくなりますね。何かあったら、すぐ署に連絡してください」
「ありがとう。美咲ちゃんも気をつけてね」
2は数分、何気ない会話を交わした。
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それが、美咲と本清子の最の会話になった。
午430分。
美咲は無線で署に最の連絡を入れた。
「こちら田巡査。伊保温泉部のパトロール完。これより署に戻ります」
無線の声はいつも通り落ち着いていた。
しかし、美咲が渋川警察署に戻ることはなかった。
午6を過ぎても、美咲は戻らなかった。
田巡査部は計を見げ、眉をひそめた。
「おかしいな。美咲のやつ、何してるんだ」
最初は、観客の対応にを取られているのだとった。けれど、携帯話にかけても、呼びし音すら鳴らず、すぐに留守番話へ切り替わった。
午7。
田美咲巡査の方が正式に確認された。
渋川警察署は、直ちに捜索体制を敷いた。
の温泉に、静かな緊張がり始めていた。
渋川警察署の空気は、瞬で張り詰めた。
署員たちは顔を見わせ、無言のままちがった。警察官が勤務に連絡を絶ち、戻らない。それは単なる遅れでは済まされない事態だった。
「温泉全域を捜す。最の無線は午430分。段部から署に戻ると言っている」
署の佐藤は、青ざめた顔で指示をした。
田巡査部はすぐに着をつかみ、へびした。夕暮れの伊保は、昼の賑わいを残しながらも、しずつ夜の気配を帯び始めていた。旅館の灯りがぽつぽつと点き、産物のシャッターがりる音が段に響いた。
「美咲!」
田は段を駆けがりながら、何度も名を呼んだ。