"霧の峠に消えた後継者" 第5話
無理やり連れられたのなら、鍵入れごと残されていてもおかしくない。
けれど、それがない。
「お兄ちゃんは、自分でどこかへ……」
佐子は震えるで資料を握りしめた。
これは自分1で抱え込めるものではない。
佐子は決した。
もう1度、当の捜査に関わったに会いにこう。
いをかけ、佐子はようやく1の名にたどり着いた。
沢田。
あの事件を担当していた刑事だった。
佐子が探し当てた、沢田はすでに退職を目にした初老の刑事になっていた。
い、数え切れない事件を追ってきたベテランだったが、その胸の奥には、15経ってもずっと引っかかったままの事件が1つあった。
の峠で消えた総郎の失踪事件である。
佐子から連絡を受けた、沢田はしばらく言葉を失った。
「総郎さんの妹さん……」
話の向こうの声は緊張していたが、芯のさがあった。沢田の胸に、あのの写真が蘇った。品のある笑みを浮かべながら、どこか寂しげな目をした青。
2は座の表通りからしれた古い喫茶で会うことになった。
そこは、かつて沢田が捜査のにコーヒーをんだだった。15く経っても、そのは同じ所にあり、窓際の席からは商をき交う々が見えた。
佐子は兄の資料を取りし、鍵入れの違を静かに語った。
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沢田はコーヒーにもつけず、じっとを傾けた。
「鍵入れがなかった……」
沢田はい声で呟いた。
15、自分たちは別荘の鍵が残されていたことばかりに気を取られていた。だが、総郎がいつも持ち歩いていた本物の鍵入れがなかったことには、誰も注を払わなかった。
言われてみれば、それは見過ごしてはならない事実だった。
「お嬢さん」
沢田は佐子をまっすぐ見た。
「正直に申しげます。私はこの事件のことを、15く1度も忘れたことがありません。の隅に、ずっと棘のように残っていました。あなたの話を聞いて、その棘が今、き始めました」
沢田はそので自宅へ戻り、押し入れの奥から古びた袋を取りした。
退職に処分しようかと迷いながら、結局捨てられずにいた私な捜査の覚えきだった。表は褪せ、端は黄ばんでいたが、そこには15の沢田が毎のようにきつけた記録が残されていた。
沢田はその覚えきを、佐子と2でもう1度最初から読み直した。
総郎が圧を嫌っていたこと。
静かな町で本をやりたいと見ていたこと。
従兄の涼介にがあったこと。
けれど涼介には隙のないアリバイがあったこと。
すべてが15のまま、のに並んでいた。
そして今、そこにしい1片が加わった。
消えた本物の鍵入れ。
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「これは、ひょっとすると……」
沢田は声を落とした。
「無理やり消されたのではなく、総郎さん自が何かのを持って、自分から消えた。その能性がてきたのかもしれません」
佐子は唇を噛みしめ、こくりと頷いた。
兄がきているかもしれない。
そのいと、なぜ自分に何も告げずに消えたのかというやりきれなさが、胸ので複雑に絡みった。
その、沢田が古いメモの付に目を止めた。
事件発と関連する付をき留めただった。沢田は今の付をい浮かべ、はっと息をんだ。
「お嬢さん」
「どうかしましたか」
佐子がそうに尋ねる。
沢田はメモから目をげ、佐子を見つめた。その顔は、の刑事としての鋭さを取り戻していた。
「この事件の効です」
沢田はく言った。
「あの頃の法律では、もし総郎さんの失踪が何らかの罪によるものだったとすれば、その罪を問える期限が、もうすぐそこまで来ています」
沢田は付を指で叩いた。
「効の成が、に迫っているんです」
佐子は息をんだ。
15く誰も気づかなかった、消えた鍵入れ。
ようやく差し始めたかすかな。
けれど、そのをたどるは、もうほとんど残されていなかった。
「あと1しかないんですか」
「ええ。だからこそ、今夜かなければならない」
沢田はちがり、古びた覚えきを握りしめた。
「くべき所が1つあります」
「どこへ?」
沢田は、15からずっとのどこかで引っかかっていた所の名をにした。