"霧の峠に消えた後継者" 第3話
京・座。
族が本社を構えるは、当まだ華やかな景気の名残を残していた。夜になればネオンが川のようにり、仕ての良い背広を着た男たちが、黒塗りのでからへと渡り歩く。
表通りの歩はいつ見ても磨きげられ、族はまさにこの町の象徴のようなだった。
しかし沢田がその内側へを踏み入れてみると、表のきらびやかさとは裏腹に、奥には複雑な関係がのように横たわっていた。
最初に話を聞いたのは、総郎の学代からの友だった。
座のれにある喫茶で向かいうと、友はめかけたコーヒーを見つめながら、ぽつぽつと語り始めた。
「あいつは……総郎は、本当はああいう世界が好きじゃなかったんですよ」
沢田はを乗りした。
「継、継って、子どもの頃からずっと言われ続けてきたんです。会社を継いで、族をまとめて、政財界と付きって。そういうが、まれたから決められていた」
友は寂しそうに笑った。
「学の頃、1度だけ酔った勢いであいつが言ったことがあります。俺は本当は、静かな町でさな本でもやりたいんだって」
沢田はペンを止めた。
「本、ですか」
「本が好きでした。難しい本から子ども向けの絵本まで、何でも読むやつでした。誰も自分のことをらない町で、1本に囲まれて暮らせたら、どんなにいいだろうって。
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あのの目だけは、今でも忘れられません」
沢田はその言葉を帳にき留めた。
静かな町で、さな本。
財閥の継者という、誰もが羨む。けれどその当は、まるで正反対のを密かに見ていた。
「あいつにとって継ぎっては、宝物じゃなくてたい荷物だったんだといます」
友は最にそう言った。
次に沢田が向きったのは、族の内側のだった。
総郎には、従兄にあたる涼介という男がいた。は総郎よりし。同じ族の会社で働いており、物腰は柔らかく、礼儀正しい男だった。
だが、その目の奥には、をじっと見定めるような油断のないがあった。
捜査をめるうち、沢田はある事実にき当たった。
もし総郎が当主の座を継げなくなれば、次にその座に最もづくのは、この涼介だったのである。
という点では、見過ごせない物だった。
沢田は何度も涼介の元へを運び、話を聞いた。涼介はいつも落ち着いていた。総郎の失踪をしむ素振りを見せながらも、決して取り乱すことはない。
「総郎さんが消えて、1番得をするのはあなたです。そういう見方もできます」
沢田があえて踏み込むと、涼介は静かに微笑んだ。
「ええ。世がそう見るのは無理もないでしょうね」
涼介は指先を組み、沢田を見た。
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「けれど刑事さん、私と総郎は従兄弟です。子どもの頃は兄弟のように緒に育ちました。あれがいなくなって私が得をする。そう疑われるのは、正直つらいですよ」
その言葉に、なくとも表面、嘘の匂いはなかった。
そして決定だったのは、事件当夜のアリバイだった。
総郎がの峠で消えたとされるまさにその刻、涼介は座の会員制ので、複数の取引先と会っていた。
沢田はそのへを運んだ。古くからある落ち着いた佇まいのだった。従業員たちはをそろえた。
「ええ、あの晩は確かにいらしていました。夕方のいから遅くまで、お取引先のお客様とずっとご緒でした」
客の何かも、涼介の姿を覚えていた。刻も数も席も、証言はぴたりと致した。
座から野の峠まで、をばしても何もかかる。あの夜ずっと座のにいた涼介には、どう考えても峠で総郎を消すことなど能だった。
「完璧だな」
沢田は捜査本部に戻り、1呟いた。
がある者には実ができない。実できた者にはが見当たらない。
捜査はきな壁に突き当たった。
それでも沢田はをかし続けた。族の使用、総郎の友、ち寄った。がかりになりそうな所は片っ端から当たった。
だがてくるのは、総郎がれず圧を抱えていたという話ばかりだった。
誘拐を疑わせる求は1度も来ない。