"飲んではいけないお茶" 第2話
そして、先ほどよりもさらに確な声で言った。
「ママが、おばあちゃんを殺そうとしてるんだ」
「殺そうとしてる」
その言葉は、佐子のにはい国のらない言葉のように響いた。脳がを理解することを、全で拒んでいた。
目のにつ孫の顔を、佐子はい入るように見つめた。8、沈黙の殻に閉じこもっていたはずの。そのさな唇から、今、世界を根底から覆すような言葉が放たれたのだ。
匠の表は、8歳の子どもが浮かべるものではなかった。そこには齢相応の覚悟と、いのあいだにく刻み込まれた恐怖のが浮かんでいた。
黒い瞳から粒の涙があふれ、頬を伝って落ちていく。
「匠ちゃん、あなた……話せたの? 今まで、ずっと?」
佐子は砕けた湯呑みの破片も構わず、そのに膝をついた。震えるで、匠のさな肩に触れる。その温もりだけが、これが現実なのだと告げていた。
「うん。ずっと話せた」
匠はうなずいた。い使われていなかったせいで、声はし錆びついていた。だが、それは紛れもなく彼自の声だった。
「でも、ママに言われたんだ。もしおが誰かとをきいたら、もしおがってることを誰かに話したら、まず父さんを殺す。次はおばあちゃんだって」
佐子の全をに打たれたような衝撃が貫いた。
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嫁のゆかりが、自分の息子にそんな呪いのような言葉を吐きつけていたというのか。
「だから僕は、黙ってなきゃいけなかった。言葉を話せない子どものふりをしなきゃいけなかった。体を揺らして、誰とも目をわせないようにして。そうしないと、おばあちゃんがんじゃうから」
言葉の最は、嗚咽にみ込まれた。
匠は佐子の膝にすがりつき、子どものように声をげて泣き始めた。8、の奥底に溜め込み続けてきた恐怖と孤独と絶望が、堰を切ったようにあふれしていた。
佐子は、匠のさな体を力いっぱい抱きしめた。
温かい。
きている。
腕のにいる孫は、これまで佐子が見てきた虚ろな形ではなかった。を持ち、考し、そして途方もない恐怖に耐え続けてきた、1のだった。
「ごめんね、匠ちゃん。ごめんね、おばあちゃん、何もらなくて。気づいてあげられなくて」
佐子の目からも、い涙があふれて止まらなかった。
それは悔の涙だった。
孫がすぐそばで獄のような々を送っていたというのに、自分はただ「かわいそうに」とれむことしかできなかった。なんと愚かで無力な祖母だったのだろう。
しばらく、2はただ泣き続けた。
畳に染みたハーブティーの甘いりが、今はの匂いのようにじられ、佐子の吐き気を誘った。
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やがて匠が、しゃくりげながら顔をげた。
「ママはね、いつも言ってた。僕が特別な子だから、ママはにいて僕の面倒を見なきゃいけないんだって。だから父さんは、僕の治療費のためにもっと働かなきゃいけないんだって」
「治療費……?」
「変な病院にいっぱい連れてかれた。でも本当の病院じゃなかった。ママの友達の坂本さんっていうお医者さんのところ。そこで難しいテストをされたり、暗い部に入れられたりした。そしてそのが、僕は病気だっていたをくれたんだ」
ゆかりがに通っていた都内の発達障害専クリニック。
健はその額な治療費を捻するため、残業も休勤もして働いていた。佐子も、これまで何度も「匠ちゃんのために」とまとまったを援助してきた。
それらすべてが、仕組まれた嘘だったというのか。
「どうして、ゆかりさんはそんなことを……」
佐子の声は絶望にかすれていた。
匠は涙で濡れた袖で目をこすり、さな声で、しかしはっきりと言った。
「おだよ」
その言葉には、8歳のが持つにはあまりにもい響きがあった。
「ママはよく話で話してた。おばあちゃんはお持ちだって。おじいちゃんがんだ、このきなおと、昔やっていた呉さんのを売ったおを全部もらったからだって」
夫、総郎が残した財産。
それは、彼が代で築きげた汗の結晶だった。佐子にとっては、夫の魂そのものだった。