"壁の中の妻" 第4話
子さんが財布を取りした。
「おいくらですか? 私がお支払いします」
「いいえ、奥さん。ここは僕が払っておきますよ。健先輩には昔から数え切れないほどお世話になっていますから、これくらい何でもありません」
本はそう言ってを振り、支払いを拒んだ。こうして本は、親切な輩というで、自然と子さんの常に入り込んでいった。蛇から漏れすれば具を持って直してくれ、球が切れればい井にって交換してくれ、い荷物があればその逞しい腕で運んでくれた。
最初は、子さんもただ純粋にありがたいとだけっていた。夫の輩が、くれた夫の代わりに自分をよく気遣ってくれているのだと信じていた。しかし、季節が初へと移り変わるにつれて、本の訪問回数は次第に、そして確実に増えていった。
「奥さん、夕はもう済みましたか? くで美しい唐揚げを買ってきたんですが、緒にべませんか?」
あるの夜8、本が突然パックをに玄関に現れた。子さんはドアを押さえながらし困ったように微笑んだ。
「あら、そんなに気を使わなくても……」
「いや、1分をで買うのももったいないですから。奥さんも、いつも1で寂しく事されてるんでしょう?」
そう言われると、断るのは難しかった。
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実際に、1で静まり返った卓でべる夕に、寂しさをじていたのは事実だったからである。
そうして、2はリビングのテーブルで何度か緒に事を摂るようになった。本の仕事の話は鮮で面かった。京での激務に追われ、話越しに仕事のストレスを滲ませる夫とは違い、現帰りの本には独特のユーモアのセンスがあった。
「奥さん、これっていますか? 今、資材を搬入した現でこんなことがあったんですよ」
本が振り振りを交えて話すのを聞きながら、子さんは声をてて笑った。それは夫がの自宅で、久しぶりにじるらぎのだった。しかし、子さんはこのも、それが単なる夫の輩としての親切だとばかりい込んでいた。
5末、週末になって夫の健が京から松本へ帰ってきたのことだった。健はリビングのソファでくつろぎながら、お茶を運んできた子さんの顔を見げた。
「おい、最、本がよくうちに顔をしているんだって?」
「ええ、のあちこちが傷んでいたのを、全部直してくれたのよ。本当に助かったわ」
子さんが笑顔で答えると、健は満そうに声をげて笑った。
「そうか、ありがたい友達だな。あいつは元々、倍義理堅いやつなんだよ。俺が京へくに、おのことをくれぐれも頼むと言っておいたからな」
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「なんだか、いつも迷惑をかけているようで申し訳ないわ」
「何を言っているんだ。俺とあいつはじゃないだろう。気楽に助けてもらえばいいさ」
健はそので携帯話を取りし、本の番号を押した。
「あ、輔か? 健だ。いつも子のことを々と気にかけてくれて、本当にありがとうな」
話の向こうから、本のハキハキとした声が響いた。
「健先輩、当然のことですよ! 奥さんが1でいらっしゃるんですから、僕がしっかりお世話しなきゃ。臭いこと言わないでください」
「ああ、僕もく松本の支社に戻れるように、今会社と層部に交渉しているところなんだ。それまで、どうか頼むよ」
「はい、先輩。何も配しないでください!」
健はしたように話を切り、子に向かって微笑んだ。そうして6が始まり、松本は本格なへと向かっていった。には半袖で歩く々が増え、夕方になれば駅の居酒からサラリーマンたちの賑やかな笑い声が聞こえてきた。
全てが平だった。子さんは毎規則正しく病院に勤して患者たちの世話をし、夫は京で懸命に働き、本は自らの建築資材の事業に邁していた。誰もらなかった。この当たりのような平が、612、曜の夜という、たった瞬の来事によって、々に砕け散ることになるとは。
2006612、曜。子さんはいつものように朝7にアラームの音で目を覚ました。