"十七年目の「ただいま」" 第5話
私の声は震えていました。
飯警部は、しばらく沈黙してから言いました。
「千津さんが連れした能性があります。守るためだったのかもしれません。ただ、そのの方までは追えませんでした」
私は目を閉じました。
りはありませんでした。
ただ、胸の奥が押し潰されるようでした。
千津は、静を奪ったのではない。
守ろうとした。
でも、そのせいで静はも帰れなかった。
警察署をると、空はく曇っていました。私は古い記帳を胸に抱え、駅へ向かいました。元はふらついていましたが、のにはひとつだけはっきりしたものがありました。
静は、どこかできている。
そして、きっとまだ怯えている。
私は岐阜へ戻るに、かつてんでいたのにちました。そこにはもう、私たち族のはありませんでした。は錆び、庭のは伸び放題になっていました。
私は静かに呟きました。
「静。お母さん、やっとしだけ分かったわ」
その夜、宿に戻った私は、百通目のをきました。
「静。あなたは悪くない。何つ悪くない。帰れなかったのは、あなたのせいじゃない。お母さんは、今度こそあなたを迎えにくから」
便箋のに涙が落ちました。
でも、その涙はの絶望とは違っていました。
ようやくへむための涙でした。
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翌朝、私は再び騨へ向かいました。
を歩くはく、息は何度も切れました。それでも私は止まりませんでした。尚が言っていた「顔に傷のある女性」の話が、かられなかったのです。
廃寺のくので、私は軒ずつ尋ねて回りました。
「このあたりで、顔に傷のある女性を見かけたことはありませんか」
くのは首を振りました。
けれど、夕方く、さな雑貨の老婆が、私の写真を見てを止めました。
「そのなら、昔、の奥の炭焼きのあたりで見たことがあるよ。あまりと話さない女だった。の頬に傷があってね」
私の臓がきくねました。
「今もそこに?」
「さあね。最は見ない。でも、々、柳の枝を持って川辺にっている女がいるって話は聞いたよ」
柳。
私は震えるで礼を言い、雑貨をました。
川辺へ向かうは細く、が伸びていました。夕暮れのがの端に沈みかけ、川面は鈍いにっていました。
そして、柳ののに、がありました。
フードを被った女性でした。
私は息を止めました。
歩づくと、そのがこちらを向きました。
頬に、古い傷がありました。
目だけが、昔の静と同じでした。
「……静?」
私の声はかすれていました。
女性はずさりました。逃げようとするようにをかしましたが、私は叫びました。
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「待って! お母さんよ!」
その言葉に、女性の肩が震えました。
い沈黙のあと、彼女の唇がわずかにきました。
「……お母さん」
その声を聞いた瞬、私はりしていました。元のに躓きながら、それでもを伸ばしました。
静は泣いていました。
声を殺して、子どものように泣いていました。
私は彼女を抱きしめました。
分のが、胸ので崩れていきました。
「ごめんね。ごめんね、静。お母さん、ずっと待っていたのに、見つけてあげられなかった」
静は私の肩に顔を埋め、何度も首を振りました。
「帰りたかった。でも、怖かった。お母さんがまた苦しむって言われたの」
私は静の髪を撫でました。
「もう丈夫。もう誰にもあなたを連れてかせない」
川の音だけが、静かにを包んでいました。
静はすぐにはくを話せませんでした。
いの恐怖と孤独は、簡単に言葉にはならないようでした。私は無理に聞こうとはしませんでした。ただ、そばに座り、温かいお茶を差しし、彼女がをくのを待ちました。
静は、千津に連れられて騨へ来たことをしずつ話しました。
千津は、静を守ろうとしていた。
けれど同に、静に「へ帰ってはいけない」と言い続けていた。
父が怖い。
母を苦しめたくない。
そのつのいが、静を縛っていたのです。
「お母さんが、私のせいで苦しむとってた」
静は湯呑みを両で包みながら言いました。
「だから、帰っちゃいけないってってた」