"十七年目の「ただいま」" 第3話
という歳が流れていましたが、私にとって静が消えたは、昨のように鮮でした。
のれにある古い本。のには狭いのが続き、になると桜のびらがにいました。けれど、私ののだけは、ずっとのままでした。
私はの々から、「針と按摩のなおばさん」と呼ばれていました。漢方とマッサージで、どうにか暮らしをてていました。
「おばあちゃん、また膝が痛むんですね」
私は代の老婆の膝にいタオルを置きながら、優しく声をかけました。
のたちは、私を静かな未だとっていました。
けれど、誰もりませんでした。
私が毎晩、娘にをいていることを。
夜になると、私はさな机に向かいました。蝋燭のので、便箋を広げます。
「静。今はあなたの回目の誕ね」
声にして読みながら、私はペンをかしました。
「お母さん、わかめスープを作ったわ。あなたの好きだった目玉焼きも入れたの」
返事はありません。
それでも私はき続けました。
、誕ごとに、祭りのごとに、初がるごとに、私は静へをきました。引きしのには、百通のが積まれていました。
の奥には、静のためのさな部がありました。
歳のに着ていたは、そのまま壁にかけてありました。
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机のには鉛と消しゴムが残され、引きしには静が拾った綺麗なや乾いたびらがしまってありました。
掃除をするたび、私は錯覚しました。
今にも静が「お母さん、ただいま」と言って入ってくるのではないか、と。
たちは、で噂しました。
「あの、まだんだ娘のことを……」
「夫にもられたらしいわね」
「男さんも寄りつかないって」
元夫の武弘は再婚しました。
男のは学を卒業、京で就職し、私とは連絡を絶ちました。精神病の母を持つことが恥ずかしかったのでしょう。
私はでした。
でも、私のには静がいました。
、曜の午。
庭で薬を干していると、郵便配達員の田さんが自転でやってきました。
「幸恵さん、ですよ」
私はいつものように受け取りました。気料の請求か広告だろうとっていました。
けれど、封筒を見た瞬、が止まりました。
黄ばんだ古い封筒。
きの所。
そして宛名には、こうかれていました。
「幸恵様。島静のお母様へ」
臓が激しく鳴りました。
私は封筒を握りしめ、急いでに入りました。部に鍵をかけ、蝋燭を灯し、震えるで封を切りました。
には、枚の便箋が入っていました。
文字を見た瞬、息が止まりました。
たどたどしい、幼い跡。
静の字でした。
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「お母さん。私は幽霊じゃないよ。ただ、帰ることができなかっただけ。あのが、私に良いことだと言ったの。私はどうやってていけばいいのかわからなかった。でも、これからは試してみるつもり。お母さん。お願いだから、いつもあので待っていて。川のくにある、あので」
はそこで終わっていました。
署名も付もありません。
けれど、文字も、言い回しも、すべて静でした。
私は便箋を胸に抱きしめ、そのに座り込みました。
「静……静なのね……」
こらえていた涙が、ついに溢れました。
翌朝、私は暗いをて、ぶりにあの柳ののへ向かいました。たいのが頬を撫で、の匂いがに届きました。元のを踏むたびに、い記憶が震えるように蘇ります。の脇に積もった枯れ葉を払いながら、私は柳の枝を見げました。枝はきく垂れ、川面に触れそうなほど伸びていました。静はここでよく遊んでいた――幼いで枝に触れ、笑っていた姿が脳裏に浮かびました。
私はさく息を吸い込み、柳のに座りました。い、誰にも話さず、をき続けた所。あのの静の笑顔をいし、膝に抱えた便箋をぎゅっと握りしめました。空気はたく、静かで、川のがせせらぎを奏でています。周囲にははなく、ただ私と、柳のと、川だけがしているようでした。
が傾きかけた頃、川向こうの丘のに、フードをく被ったがっているのが見えました。