"消えた子役の日記帳" 第1話
昭609の終わり頃、京都郊の嵐の裾にある映画京都撮所は、朝くから慌ただしい空気に包まれていた。
気代劇の撮だった。古びたのセットのでは、着物姿の部俳優たちが何もき交い、スタッフたちは照材や35mmフィルムカメラを運びながら、額に汗を浮かべていた。の箱がを引きずる音、助監督の指示、装部の声、発のい唸りが、広い撮所のでなっていた。
そのに、7歳の子役俳優、翔太がいた。
メイクを終えた翔太は、母親の子のをしっかり握って、瓦根の控の方へ歩いていた。翔太はデビュー作1本で「国民の末っ子」と呼ばれるようになった子どもだった。同じ頃の子よりしびていて、すれ違うスタッフ11に先にをげる。
「おはようございます」
さな声でそう言うたびに、周囲のたちは頬を緩めた。
子にとって、翔太はこの世のすべてだった。子は縫製の内職をしながら、女1つで翔太を育ててきた。夜遅くまで針を持ち、眠るも惜しんで働いた。どれほど疲れていても、翔太の寝顔を見ると、も頑張ろうとえた。
撮所の正を守っていた老いた警備員の佐藤は、翔太を見つけると嬉しそうに笑った。
「うちの末っ子坊や、今もかっこよく撮るんだぞ」
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佐藤はポケットから飴玉を1つ取りし、翔太のに握らせた。
翔太は両で受け取り、丁寧にをげた。
「ありがとうございます、おじいさん」
その様子を、総監督の黒孝志がフィルムカメラの脇から見ていた。黒監督はこの作品の物で、現では誰もが彼の顔をうかがっていた。彼は翔太にづき、肩を軽く叩いた。
「翔太、今も頼むぞ」
「はい、監督」
黒は優しく微笑んだ。
その微笑みの裏に何が隠されているのか、そのにいた誰1としてる者はいなかった。
最初のシーンの撮をに、翔太が母親のをそっとした。
「ママ、ちょっとトイレってくるね」
子が頷こうとした、その瞬だった。装部の女性が慌てた声で子を呼んだ。
「さん、すみません、装のことでし確認を」
子は瞬だけそちらへ線を向けた。
そのわずかなに、翔太のさなは完全にれていた。
5分経っても、翔太は戻ってこなかった。
最初は誰も刻に考えなかった。撮所のだ。勢のがいる。子どもがし迷っただけだろう。子もそうおうとした。
けれど、胸の奥に嫌なざわめきが広がった。
子は暗い廊へを踏みした。トイレのにづいた瞬、体が固まった。
たいセメントのの真んに、翔太のいズック靴の片方だけが、ぽつんと置かれていた。
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「翔太……?」
子の声は震えた。
靴の周りには誰もいない。泣き声も、音も、返事もなかった。
次の瞬、子は叫んだ。
「翔太!翔太!」
その声を聞き、スタッフたちが斉にりした。助監督、照係、装係、部俳優、警備員。撮所の隅々まで探し回った。セットの裏、控、倉庫、トイレ、事務所、正、裏。
けれど、翔太の姿はどこにもなかった。
当の郊の撮所には、防犯カメラなどなかった。誰がどこへいたのか、確かめるてはなかった。
勢のがいたるい撮現のど真んで、7歳の子どもが煙のように消えた。
残されたのは、いズック靴の片方だけだった。
通報を受け、京都府警の捜査員たちが撮所へ駆けつけた。
正はすぐに閉じられ、敷の入は警察官で固められた。現にいた100あまりのスタッフや俳優たちは、1ずつ引きされ、事を聞かれることになった。
撮所は部のが簡単に入り込める所ではなかった。正には警備員がち、裏も関係者以は使えない。つまり、翔太がから来た何者かに連れられた能性はかった。
刑事の健は、トイレに残されたいズック靴を見ろしながら、眉を寄せた。
「子どもが自分で靴を片方だけ脱いで消えるはずがない」
は現の空気に、説できない違を覚えていた。
ちょうどその頃、撮だった本編の最初のシーンを撮っていたカメラが、誰にも識されないまま、あるものを背景の隅に捉えていた。