"32億の貧乏母" 第4話
だが今は違う。これからは、自分のためにきると決めたのだ。
か、横浜港の型客ターミナル。
澄子はルイ・ヴィトンのトランクを従え、背筋を伸ばして歩いていた。質なワンピースにを包み、髪も美しくえられている。かつて「みすぼらしい」と言われた女性の面は、どこにもなかった。
「様、お待ちしておりました」
クルーズのスタッフが最敬礼で迎える。
「ペントハウススイートへご案内いたします」
澄子は穏やかにうなずいた。案内された部にはシャンパンと束が用され、広いバルコニーからは横浜のが望できた。
「ご主様はご緒ではないのですか?」
スタッフに聞かれ、澄子は微笑んだ。
「旅よ。自由を満喫するつもりなの」
その、携帯が鳴った。
画面には雄の名。
このか、毎のようにかかってきていた話だった。澄子はなかった。留守番話のメッセージだけが残る。
「母さん、お願いです。もう度会ってください。織も反省しています。本当に申し訳ありませんでした。僕たちが違っていました。おなんてどうでもいいんです」
澄子は表を変えず、削除ボタンを押した。
「億円をってから言っても、説得力がないわね」
が汽笛を鳴らした。
ゆっくりと港をれていく。
デッキにると、見送りの々がを振っていた。
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そのに、必にってくるつのが見えた。
雄と織だった。
「母さん!」
潮に乗って叫び声が届いた。
けれど澄子は振り返らなかった。
「さようなら」
静かにつぶやき、彼女はへ戻った。
しいが、始まっていた。
第章 失ったもの
本に残された雄の活は、そのを境にきく崩れ始めた。会社の机に座っていても、類の文字がに入ってこない。司に呼ばれても返事が遅れ、簡単な確認ミスを繰り返した。
「おい、丈夫か? 最ミスがいぞ」
そう注されても、雄ののにはつの数字しかなかった。
億円。
もない貧乏な母だと見していた女性が、実は像を超える資産だった。そのすべてを、自分は失ったのだ。
に帰れば、織も塞ぎ込んでいた。以のように実の裕福さを誇る元気もない。
「私のせいよ。お義母さんをあんなに馬鹿にして」
雄はソファに座り込み、を抱えた。
「君だけじゃない。僕も……母さんを恥ずかしいって言った」
しかし、会話は次第に責任の押し付けいになった。
「あなたがちゃんと止めてくれればよかったのよ」
「君だって、施設に入れればいいって言ったじゃないか」
のには、もう以のような余裕はなかった。
織は実にも相談した。だが返ってきたのはたい言葉だった。
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「億円を逃したの? 馬鹿じゃないの」
織の母は呆れたように言った。
「を見る目がなかったのね。うちだって、そんな愚かな娘夫婦の面倒まで見られないわ」
頼みの綱だった織の実からも見放された。雄と織の関係は、ににえていった。
方、を航する豪華客ので、澄子は穏やかな々を過ごしていた。朝はバルコニーでを眺め、昼は寄港のを散策し、夜はでりった友たちとワインを楽しんだ。
「様、今もお美しいですね」
のキャプテンが声をかけると、澄子は笑った。
「ありがとう。今はどちらに寄港するの?」
「モナコです。カジノがお好きでしたらご案内しますよ」
「いいえ、を歩きたいわ」
澄子はでりったアメリカの女性実業メアリーや、イギリスの資産エリザベスとモナコのを歩いた。い畳、青い、級がき交う通り。そのすべてが、澄子にはしい世界だった。
夕方、はテラス席でワインをんだ。
「澄子さんの話、したわ」
メアリーが言った。
「子供に期待しないき方って素敵ね。私も息子に会社を継がせようとっていたけど、考え直すわ」
エリザベスも静かにうなずいた。
「おで態度を変えるは信用できないものね」
澄子はグラスを掲げた。
「私たちの代は、もう子供に縛られる必はないわ。
自分のを、自分のためにきましょう」
のグラスが静かに触れった。