"32億の貧乏母" 第3話
織が横から覗き込み、すぐにで笑った。
「編み? 今珍しいですね。まるで戦みたい」
織の母親も笑った。
「物の毛糸ね。ちくちくしそう。雄君、こんなの使わないでしょう?」
澄子は何も言えなかった。自分ので編んだマフラーが、ソファの隅に無造作に置かれるのを見て、胸が静かに痛んだ。
事の席では、織の父親が相続の話を始めた。
「うちは来、マンションを棟、織に贈与する予定でしてね」
雄が目を輝かせる。
「さすがお父さん」
織の父親は、今度は澄子に線を向けた。まるで値踏みするような目だった。
「雄君のお母さんは、何か財産は?」
雄が先に答えた。
「母さんには財産もないし、もないんです。正直、これから施設の費用をどうするかってじで」
「あら、変ね」
織の母親は同するような声をしたが、その目はらかに見していた。
織も追い打ちをかけた。
「うちの親戚にも貧乏ながいるけど、親族の集まりには呼ばないの。恥ずかしいから」
織の両親が笑った。
「貧乏は伝染するって言うしね」
その笑い声ので、澄子は黙って箸を置いた。雄は母をかばわなかった。それどころか、困ったように苦笑しているだけだった。
事が終わったあと、玄関先で雄が声で言った。
「母さん、今度から誕会には来なくていいよ」
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澄子は息子の顔を見つめた。
「どうして?」
雄は目をわせなかった。
「織の両親ので恥ずかしいから。母さんの装も……なんていうか、みすぼらしいし」
澄子は自分の古いワンピースに目を落とした。に買ったものだが、切に着てきただった。
「おがないって、本当に恥ずかしいことなのかしら」
澄子が静かに尋ねると、雄はためらわず答えた。
「当たりでしょう。今の代、おがすべてだよ。もない、財産もない親を持つのは、正直つらい」
その瞬、澄子ので何かが音をてて崩れた。
「そう。もない親は、恥ずかしいのね」
雄は母の顔を見て、わずかに眉をひそめた。そこにあったのは、いつものしそうな母の表ではなかった。静かで、い決のだった。
「雄、つ聞かせて。もし私に財産があったら、あなたの態度は変わっていた?」
雄は瞬戸惑い、すぐに笑った。
「母さんに財産なんてあるわけないでしょう。すらないのに」
澄子は静かに微笑んだ。
「じゃあ、今度会うは、本当の私を見せてあげるわ」
雄が問い返すに、澄子は玄関をた。
夜を歩きながら、澄子は決めた。
もう分だった。
第章 本当の澄子
翌朝、澄子はいつもよりく目を覚ました。カーテンをけると、い朝が古いアパートのに差し込んだ。いつもの部、いつもの台所、いつものい器。
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けれど澄子のは、昨までとはまったく違っていた。
彼女は押し入れの奥からさな庫を取りし、机のに置いた。鍵を差し込み、ゆっくりける。には、誰にも見せなかった類がきちんと並んでいた。の残証、産の権利証、株式の証券、夫が残した会社売却益の資料。
澄子は枚ずつ確認した。
億円。
その数字は、ただの財産ではなかった。夫とともに積みげてきたの証であり、誰にも媚びずにきていくための力だった。
これまで澄子は、それを隠してきた。息子に試したかったからだ。母親としてしてくれるか、それともとして見るのか。
答えはた。
残酷なほどはっきりと。
数、澄子は弁護士と会った。落ち着いた応接で、彼女はこれまでの経緯をく説した。弁護士は黙って聞き、最に静かにうなずいた。
「では、相続についての方針を変更されるのですね」
「ええ。息子には残しません」
澄子の声は揺れなかった。
「児童養護施設への寄付続きもめてください。子どもたちの教育に使ってもらいたいの」
弁護士は瞬驚いたように目をいたが、すぐにくをげた。
「承いたしました」
そのあと、澄子は旅会社にも向かった。パンフレットのから選んだのは、世界周クルーズだった。かの旅。
ペントハウススイート。千万円。
以の澄子なら、そんな贅沢は考えもしなかった。