"千船の祝い膳" 第3話
何歳でも名な本料理が入っているところです。
「応、お義母さんにも来ていただければとっています」
応、という言葉がし引っかかりました。でも私は「きます」と返事をしました。
おい初め。
赤ちゃんがべ物に困らないように願う儀式です。
私はその祝い膳を、何百回も作ってきました。らない族のためにを込めて鯛を焼き、赤飯を蒸し、吸い物をえてきました。
自分の孫の席に呼ばれるが来るとは、若い頃の私は考えたこともありませんでした。
の夜、私は着物を選びました。夫がまだ元気だった頃に買ってくれた、がかったの着物です。袖はし擦れていますが、丁寧に入れしてきたものです。
「これでいいかしら」
仏壇ので夫の写真に聞きました。返事はありません。でも私はその着物を畳み直し、帯を用しました。
翌朝、私はめにをました。
には古い布の袋。には祝い箸を入れたさな箱と、千の布巾を入れました。
ホテルは像していたよりも派でした。広いロビーにはが飾られ、は鏡のようにっていました。私はしだけを止めました。自分の履の音が、妙にきく聞こえました。
案内された階にがると、宴会のにさな板がていました。
「原 おい初め御席」
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その文字を見た、胸が温かくなりました。
私は扉ので息をえました。から笑い声が聞こえます。カメラのシャッター音。赤ちゃんをあやす声。器が触れるさな音。
私は扉をけようとしました。
その、から絵里奈さんの声が聞こえました。
「お母さん、鍵をかけて。お義母さんを入れないで」
私のが止まりました。
美佐子さんの声がしました。
「本当にいいの?」
絵里奈さんは、し苛ったように言いました。
「その古い着物で入らないで。写真に残るから」
かちり、と鍵が閉まりました。
私は扉のにったまま、何も言えませんでした。
には真司がいることも分かっていました。私はさく名を呼びました。
「真司」
返事はありません。
しばらくして、真司の声が聞こえました。
「でも、母さんも来てるし……」
絵里奈さんがすぐに言いました。
「真司さん、今はちゃんとした席なの。お願いだから空気を読んで」
その、真司は何も言いませんでした。
私は布の袋を握りしめたまま、廊にち尽くしました。
は本当に傷ついた、すぐには泣けないものです。
私はただ、自分の着物の袖を見ました。夫が選んでくれた着物でした。古いけれど、何度もを通して、事にしてきたものです。
それが、写真に残ると恥ずかしいものなのだと言われました。
私は扉を叩きませんでした。
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きな声もしませんでした。ただ、祝い箸だけでも預けて帰ろうといました。
受付の方へ向かおうとした、袋ので布巾が引っかかり、するりとに落ちました。
い布が広がり、隅の刺繍が見えました。
「千」
私は慌てて拾おうとしました。
その、廊の向こうからい調理の男性が歩いてきました。背筋の伸びた男性でした。60代くらいでしょうか。ろには若いスタッフと着物姿の女性がいました。
男性はの布巾に目を落とし、を止めました。
彼はゆっくりと布巾を両で拾いました。まるで古い器を扱うように、丁寧なつきでした。そして刺繍を見ました。
「……千」
その声に、私は顔をげました。
男性の顔を見た瞬、私も息をみました。
「榊原……総」
若い頃、私の厨にいた子です。
背がく、器用で、よく汁を濁らせては私に叱られていました。包丁はいのに、盛り付けになると力が入りすぎる子でした。
祝い膳を豪華に見せようとして、肝の静けさを失う。
私は何度も言いました。
「祝い膳は、見せびらかすものではありません。を包むものです」
その榊原さんが、今ではホテルの総料理になっていました。
彼は私を見つめました。
「千先」
私はさく首を振りました。
「もう、その名で呼ばれるではありません」
次の瞬、榊原さんは私ので膝をつきました。
廊にいたスタッフが息をむ音がしました。
彼は両で布巾を持ったまま、くをげました。